南京事件を認めると謝罪と賠償が求められ国益を損なう、と見えない恐怖に脅えている人について
今回の南京事件に関する一連のエントリーでの、とあるblogのコメ欄に
「南京事件があったことを日本が認めると中国からなんらかの賠償と謝罪が求められるから認められない。」
といった被害妄想の強い否定派の人をみかけた。こういった明らかな事実誤認に基づいた否定派というのは、こちらが「日本政府は被害者の具体的な人数については諸説有るとしているが、南京事件がおこったことは公式に認めているし、日中両国間の国交正常化以降に中国政府が謝罪や賠償を求めたことはありませんが。」と教えても、次に必ず(セット)と言っていいほど、
「国益を損なうことになるから認められない。」「あなたは少し勉強不足ではないでしょうか?」
と、おもいっきしこちらがズッコケるようなレスを返してくる。しかも、きちんと事実関係を把握できていないのは自分の側であるにも関わらずなぜか自信満々に・・・。こういった事実関係より感情を優先するタイプというのは、経験上、こちらが丁寧に説明しても何一つ聞き入れず議論が無駄に終わることがほとんどである。この手の人たちというのは、日本の敗戦後に国民党と中国共産党の国共内戦が続いたこともあって中国では長い間、南京事件の被害者というのは忘れられていた時期があったことや、1982年の日本側の教科書問題や南京事件を否定する閣僚の発言が先にあり、それに警戒心を強めた中国政府が南京大虐殺記念館建設の指示を出したことや*1、90年代まで中国政府は(南京事件を含む)歴史問題で日本を刺激するよりも経済協力を得る方を優先していたこと*2なども、おそらく知らないのだろう。
当ブログでは今まで慰安婦問題に関するのエントリーをそれなりに多く書いている*3のだけれど、類似のコメントは何度も付いた。慰安婦問題で韓国政府が日本に賠償金を求めたことなんてないのに*4「韓国は謝罪と賠償を求めている」とコメ欄で噛み付いてきた人たちのことだ。こちらが間違いを指摘すると同じように「〜を認めると国益を損なう。」と言い張っていたことを思い出す。
んで、この手の人たちって具体的にどのような国益が損なわれるのか提示したことは一度もない。ただ幻想上の見えない恐怖に脅え、そう思い込んでるだけなのである。例えばの話し、アメリカ政府が原爆投下を日本に謝罪したとしたら被害者や被害国から歓迎されることはあっても、何か損なわれるものがあるとは思えないのだが・・・。
それでも「南京事件なんて認めないよ!チュウゴクのプロパガンダにはニッポソもプロパガンダで反撃せよ!」なんてマジで言っちゃうようなお花畑な人がいるとしたら以下の現実だけでも冷静に受けとめてほしいものだ。
- 代表的な南京事件否定論者である東中野修道氏は夏淑琴さん名誉毀損訴訟で裁判所から「資料の解釈は妥当ではなく学問研究の成果に値しない。」と断じられ、中国では日本の右翼が被害者をニセ者呼ばわりし二重に苦しめた、と報道されたのでした……。
- 米国議会調査局のまとめた慰安婦システムに関する(CRS)報告書では、自民党「日本の前途と歴史教育を考える議員の会(会長・中山成彬)」や「南京問題小委員会(委員長・戸井田徹)」に代表されるような日本の国会議員たちは「歴史修正主義者」と名指しされている。つまりホロコースト否定論者と同じ扱いということです……。
- そんな「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」は、議連名で否定本『南京の実相 国際連盟は「南京2万人虐殺」すら認めなかった』水間政憲 著をアメリカの上下両院の議員宛に郵送したり、外国人記者クラブで「南京大虐殺は虚構であり政治宣伝にすぎない」と結論付けた記者会見を開いたりしている。本人たちは反撃したつもりになっているらしいが恥ずかしいからやめてくれよ……。
- 日本国内の報道では否定論者は「30万人は誤り」と30万人説だけを否定しているように見えるが、海外メディアでは一様に南京での大虐殺そのものを否定しているという報道になっている。会見では戸井田とおる議員が、「"We are absolutely positive that there was no massacre in Nanking," Toida said. 訳:我々は、大虐殺が南京で全くなかったことを確信しています。と、戸井田は言いました。」と言っていることから、内容的にはそのほうが正確だったのでした。これじゃあ逆効果だよ……。(参照:海外で報道される国会議員の南京事件否定論 - good2nd)
- チャンネル桜の水島聡社長がつくった映画『南京の真実』をロサンゼルスで1週間、上映したのだが、地元紙のLA Weeklyの記事では、「日本の右翼、水島総監督の駄作プロパガンダ映画『南京の真実』は、その題名に関する事実などろくに描いていない。(中略)『南京の真実』は、昨年公開された『南京』に反論する意図で製作されると公表された連作の一部だが、たった一つの映画館で一週間だけ上映されただけの『南京の真実』の哀れな遠吠えは、現在進められているの南京大虐殺を扱ったハリウッドの複数の映画のただ中で、さっさと忘れ去られていくことになろう。」と、酷くこき下ろされているのでした……。(参照:映画『南京の真実』LAで撃沈!? - Stiffmuscleの日記)
南京事件がおこったことなんてアカデミズムの世界ではとっくに証明済みで、世界の常識。それをいつまでも必死に否定してるほうが、よっぽどみっともなくて恥さらしであり、そのような振る舞いは日本の国益とやらに、とてもじゃないがプラスになっているようにはみえないよな。
最後に、史実派の人たちの多くが南京事件初心者に『南京事件』笠原十九司 (著)とセットで『南京事件論争史』笠原十九司 (著)をススメているけど、個人的には論争史に加え、南京攻略戦に参加した日本軍兵士の当時の日記を引用しながら南京事件がなぜおこったのかとか、国際シンポジウムの場で研究者から否定派がどのように見られているかなど幅広く紹介されている『南京事件と日本人』笠原十九司 (著)も良書なので一読することをオススメします。
(6/6 このエントリーは後から少し追記しました。)
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*1:(追記)日本側の行動は批判の外に (6/5追記) - Close To The Wall
*2:「南京大虐殺は外交カード」? - 歌ったらアカン歌なんてあるわけないんだッ!
*3:まあ、多く書いてるだけで内容的にはたいしたこと書いていないんですが(苦笑)
*4:韓国政府が慰安婦問題で日本に賠償金を求めたことは一度もありません。1965年の「日韓条約」締結以降に植民地支配の賠償を求めたこともありません。