人種差別撤廃委員会で行われた日本の人権状況を審査する会合について

2月24日、25日に国連の人種差別撤廃委員会(CERD)で行われた日本政府の報告書を審査する会合について、ざっと国内の報道を追った感じでは全国紙はごく簡単に触れたのみで、おこじょさんが紹介しているジャパンタイムズの記事が一番詳しく報じているようだ。

2010-02-26 - おこじょの日記|国連デビューしちゃったやばい人々
2010-02-26


そんな中で、傍聴した東京造形大学教授の前田朗(まえだ あきら)さんが『前田朗Blog』でそのときの様子を詳しく報告してくれています。以下4つのエントリです。あまりブクマも伸びていないようなので、周知のためコチラでもお知らせしておきます。ちなみに、日本政府に対する勧告は3月10日前後に出るとのこと。

グランサコネ通信2010−05 (CERDの日本政府報告書審査2月24日)
前田朗Blog: グランサコネ通信2010-05
グランサコネ通信2010−06 (CERDの日本政府報告書審査2月25日・前半)
前田朗Blog: グランサコネ通信2010-06
グランサコネ通信2010−07 (CERDの日本政府報告書審査2月25日・続き)
前田朗Blog: グランサコネ通信2010-07


グランサコネ通信2010−08 (記者会見)
前田朗Blog: グランサコネ通信2010-08

上田大使が自分の言葉で話した部分に、差別問題についての彼の認識、というより、まったくの無理解が顕在化しています。
(中略)
「沖縄語は日本語の変形だ」にも呆れました。お前、聞いたことあるのかよ、です。「日本語は沖縄語の変形だ」とは絶対に言いません。この一点だけでも不当です。「わからない」と言ったすぐあとに「同じだ」と決め付ける無責任さ。


そして、もっとひどかったのが、この期に及んで「先住民族の定義はない」と言い出したことです。めちゃくちゃです。日本政府は2001年のCERDで「先住民族の定義が決まっていないから、アイヌ先住民族か否か判断できない」と唱えて、強く批判されました。ILO条約やボゴ報告書を無視しています。2007年にUN先住民族権利宣言が採択されました。2008年、国会決議によりアイヌ先住民族と認めることになりました。であれば、何らかの定義を採用したはずです。にもかかわらず、今になって「定義はない」というのです。だったら、「アイヌ先住民族と判断できない」はずです。


これほどいい加減な発言をする人物が「人権人道大使」なのです。


http://kokogiko.net/m/archives/002218.html

国会の先住民族決議では、確かに「民族」の定義はされていないようだが、

昨年九月、国連において「先住民族の権利に関する国際連合宣言」が、我が国も賛成する中で採択された。これは アイヌ民族の長年の悲願を映したものであり、同時に、その趣旨を体して具体的な行動をとることが、国連人権条約監視機関から我が国に求め られている。

という一文がある。
先住民族の権利に関する国際連合宣言」が採択されたのだから、具体的な行動が求められている(よって本決議を採択する)という 文意である以上、「民族」の定義は「先住民族の権利に関する国際連合宣言」に従うと解釈するのが自然だ... というか、それ以外に解釈のしようがないだろう。
先住民族の権利に関する国際連合宣言」と定義が異なるのならば、それに沿った具体的行動でも何でもなくなるのだから。


では、今度は「先住民族の権利に関する国際連合宣言」の解釈に移ってみよう。
先住民族の権利に関する国際連合宣言」の原題は、United Nations Declaration on the Rights of Indigenous Peoples であり、「Indigenous Peoples の権利に関する国際連合宣言」であることが判る。
では、この「Indigenous Peoples」の指す概念とは何なのか。
「nation」なのか、「ethnic group」なのか。
英語版Wikipediaで引いてみると、以下のように書いてある。

The term Indigenous Peoples or autochthonous peoples can be used to describe any ethnic group who inhabit a geographic region with which they have the earliest historical connection, alongside migrants which have populated the region and which are greater in number.

どう読んでも、「ethnic group」に対する定義であり、「nation」に関する定義ではない。
よって、「先住民族」というコンテキストにおいては、「先住民族の権利に関する国際連合宣 言」の定義による「民族」とは「ethnic group」であり、それを受けた国会の先住民族決議の定義も 「ethnic group」であって、「nation」ではあり得ない。

日本語で「民族」と訳されてしまっているからといって、勝手に「民族なのだからnationだ、(中略)、よってアイヌは民族ではない」という詐欺論説の片棒を担いではいけない。
先住民族」というコンテキストでは「民族はethnic group」だし、「ethnic group」という意味の民族では、アイヌは立派に民族である。


上田秀明(うえだ ひであき) - 外務省HP
http://www.mofa.go.jp/Mofaj/gaiko/jinken_r/taishi2.html


元駐オーストラリア大使で、現在は外務省参与、人権人道担当大使だそうです。