性奴隷の定義を無視し「慰安婦は性奴隷ではない」と叫んでも反論になってない(2)

【主張】河野談話20年 偽りの見解を検証し正せ 慰安婦は「性奴隷」ではない - MSN産経ニュース 【主張】河野談話20年 偽りの見解を検証し正せ 慰安婦は「性奴隷」ではない - MSN産経ニュース
2013.8.4 03:13 (2/4ページ)

「性奴隷」は、慰安婦奴隷狩りのような手段で集められた印象を与える。欧米の多くのメディアが、この言葉を意図的に使っているとしたら問題だ。


こういうバカバカしい社説が大新聞(嘘が大きいという意味で)に堂々と掲載されています。
主観的な印象論のみで「慰安婦は性奴隷ではない」と判断を下し否定しており、詭弁であり、明白な誤りでもあります。


すでに国際機関の定義によって反証済みなんでリンクを貼っておきますね♪

性奴隷の定義を無視し「慰安婦は性奴隷ではない」と叫んでも反論になってない - Transnational History 性奴隷の定義を無視し「慰安婦は性奴隷ではない」と叫んでも反論になってない - Transnational History

フィリピンで慰安婦(性奴隷)にされた被害者女性たちが抗議デモ

7月27日、安倍晋三首相はフィリピンの大統領府でアキノ大統領と会談しましたが、外では戦時に慰安婦にされたフィリピン人被害者とその支援者による抗議活動が行われていました。

Philippine wartime sex slaves demand apology during Abe's visit
安倍氏の訪問中にフィリピンの戦時性奴隷(従軍慰安婦)への謝罪を要求
http://news.xinhuanet.com/english/world/2013-07/27/c_132579308.htm




プラカードの一部文字起こし

PM Shinzo Abe
We are victims of Japan's military sexual slavery
安倍晋三総理
私たちは日本軍性奴隷制度の犠牲者である


We are the proof the living witness of Japan's war crime
私たち生存者が日本の戦争犯罪の証拠だ


We want justice now!!
私たちはいま正義を望んでいる!!


We were forced
We were abused
We were violate
We were raped
by Japanese military during World War II

第二次世界大戦のあいだ日本の軍隊によって
私たちは強制された、虐待された、レイプされた、犯罪だ


他にも、「我々に起こったことが次の世代に起きてはならない」、「我々は、船(安倍氏ODAの名目でフィリピンに供与する巡視船)ではなく正義を望む」などのプラカードが掲げられたとのことです(他の報道による)。

安倍首相のフィリピン訪問への反発は、第一次安倍内閣の時から前科があるので自業自得としか言いようがないわけですが、それにしてもこうした被害者の声を認知できない国のトップが、ASEAN各国首脳らとの会談の場で憲法解釈で禁じられている集団的自衛権の行使について理解を求めたんだそうです。
その際、安倍首相は憲法改正に関し、「平和主義」や「基本的人権」などを「当然の前提」として説明しているんだとか。これ国の内と外で言動を使い分ける得意の二枚舌戦略なわけですが、「平成25年7月27日 内外記者会見 | 平成25年 | 総理の演説・記者会見など | 記者会見 | 首相官邸ホームページ」などでの外国人記者とのやり取りを読んでみると、どこまで理解を得られてるんだろね。


関連リンク


2013-07-27 Sex slavery victims rally in Manila - The Japan Times
性的奴隷制度の被害者がマニラで集会
http://www.japantimes.co.jp/news/2013/07/27/national/sex-slavery-victims-rally-in-manila/#at_pco=cfd-1.0&at_ord=7

MANILA – Six Filipino former sex slaves staged a rally Saturday near the entrance of the Philippine presidential palace as Benigno Aquino III held a meeting with Prime Minister Shinzo Abe.

“Justice for the grandmothers! Shinzo Abe, we are here, proof of the Japanese military’s sexual slavery,” Virginia Villarma, 84, shouted. “President Aquino, this is your chance. If you truly support us, convey our message to your friend, Shinzo Abe.”

Villarma was 14 when Japanese forces housed her and her sister in a garrison in Manila’s port area, forcing them to wash soldiers’ clothes, cook food and cater to their sexual needs, she said.

“The trauma is immeasurable, and that experience remains fresh in my memory,” Villarma, a member of Lila Pilipina (League for Filipino Grandmothers), said.

Villarma said she received financial help from the Asian Women’s Fund in 1996 and has heard apologies offered by Japanese officials and people. However, it’s not the same as redress from the Japanese government, she said.

Villarma and her five fellow sex slaves, known colloquially as “comfort women,” are backed by family members and a women’s rights group. They continue to demand an unequivocal apology and compensation from the Japanese government.

They also want official acknowledgment of Japanese military sexual slavery in Japan’s historical accounts and books about the war.

“Many of us have died, and many of those still alive like me are already weak and sickly. But we will not give up on our struggle to get justice,” Villarma said.

Of the original 174 members in Lila Pilipina, 73 have died, the most recent on July 12. From the Malaya Lolas (Free Grandmothers) group, 55 women have died out of 92 original members.

“I am begging for the mercy of both the Philippine and Japanese governments. We suffered so much during the Japanese occupation because aside from raping women in my home place in Pampanga, the soldiers also separated the men and killed them and burned our houses,” Isabelita Vinuya, president of Malaya Lolas and a former sex slave, said in an interview.

Joms Salvador of the women’s rights group Gabriela, which joined the protest, expressed fear that a new generation of sex slaves may evolve even before the original ones get justice with the planned granting of access to Philippine military facilities for the U.S. military and Japanese Self-Defense Forces.

“We demand justice for the comfort women and we also denounce any expansion of Philippine-Japan-U.S. military cooperation, which will breed the next generation of comfort women,” Salvador said.


Philippine wartime sex slaves demand apology during Abe's visit
http://news.xinhuanet.com/english/world/2013-07/27/c_132579308.htm
COMFORT WOMEN: 'HUSTISYA PARA SA MGA LOLA'
http://www.rappler.com/nation/34961-comfort-women-justice http://labanforthelolas.blogspot.jp/2013/07/the-lolas-are-at-palace-again-voltaire.html
フィリピンで元慰安婦らがデモ 安倍首相訪問に合わせ
http://www.asahi.com/international/update/0727/TKY201307270242.html
河野談話の堅持求める=慰安婦問題で比(フィリピン)外務省
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201305/2013051501102&g=pol


●8月11日(日)東京で、フィリピンから性的奴隷従軍慰安婦)にさせられた被害者女性たちが来日し国際シンポジウムが開催されます。詳しい情報は以下リンク先をお読み下さい。


歴史のねつ造は許さない!  日本軍「慰安婦」メモリアル・デーを国連記念日に!! - 河野談話を守る会のブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/kounodanwawomamoru/64031179.html

 とき:2013年8月11日(日)
10:30 開 場
11:00〜フィリンピンから日本軍「慰安婦」被害者証言
12:00〜休憩
13:00〜国際シンポジウム
16:30 閉 会
 場所:東京ウィメンズプラザ・ホール
    http://www.pbls.or.jp/event/map_tokyo-womens-plaza.html
    東京都渋谷区神宮前5-53-67「渋谷駅」下車徒歩12分、
    「表参道駅」下車徒歩7分(地下鉄銀座線・半蔵門線・千代田線)
参加費: 1,000円
 主催:日本軍「慰安婦」問題解決全国行動
    8・14を国連記念日にしよう! キャンペーン


【国際シンポジウム 戦時性暴力被害者から変革の主体へ】

基調講演:
  ■女性の参加が平和を持続可能なものにする
   〜安保理決議1325号のコアメッセージ〜
   アンワラル・チャウドリー(元国連安保理議長)


  ■日本軍「慰安婦」被害者が変革の主体になるとき
   尹美香(韓国挺身隊問題対策協議会常任代表)

  ■記憶を普遍化し、未来に引き継ぐことの意義
   岡真理(京都大学教員)

  ■特別参加フィリピンから 日本軍「慰安婦」被害者証言

  ■ファシリテーター 渡辺美奈(日本軍「慰安婦」問題解決全国行動)

(中略)

●特別参加(フィリピンから)
・レチルダ・エクストレマドゥラさん
リラ・ピリピーナ(被害者と支援者の組織 LILA Pilipina)のコーディネーター。被害者の正義の回復とともに、性暴力を生みだす軍隊のありようそのものを問う運動を展開。「パマナ」(継承者)を組織したり、フィリピン国内の各大学と連携するなど、継承と教育も常に視野に入れて活動している。

・ピラール・フリアスさん
ルソン島南カマリネス州生。16歳の時、洗濯をしているところに現れた2人の日本兵にナイフで顔を刺されるなどの後、輪かんされる。村が焼かれ学校に避難。日本軍部隊により、3人の女性と一緒に昼夜腰縄で繋がれたまま、山中をゲリラ討伐に連行され、輪かんされる日々が続いた。

エステリータ・デイさん
1930.4.28、ネグロス島タリサイ市生。83歳。1944年14歳のとき、市場に物売りに出かけ、ゲリラ討伐に巻き込まれ、女性たちと一緒に、日本軍駐屯地に連行され、輪姦される。昼は日本兵の服の洗濯と掃除、夜は輪姦という日々がアメリカ軍がタリサイ市に来るまで続いた。
(以下略)

公娼制度は国家公認の人身売買による奴隷制度:1910年代〜1930年代

次のような「慰安婦=公娼=売春婦」論は、従軍慰安婦の問題を否定する論者によってこれまで何度も繰り返されてきました。


 日本維新の会平沼赳夫は、旧日本軍の従軍慰安婦問題について国の関与を否定した上で「従軍慰安婦と言われている人たちは“戦地売春婦”だと思っている」「昔は公娼(こうしょう)制度があり、戦地売春婦をしていた女性が訴訟を起こしてきた」と述べた(参照:*1)。


当時は公娼制度があり合法化された「売春婦」だ、だから何ら問題はないという認識は、軍慰安所で売春を強制されようが、性暴力を受けようが、何ら問題はないと言っているに等しく、こうした認識はいかにも短絡的で、差別的ではないでしょうか。

さらに言えば、当時すでに内地において公娼制度は当然のものではなく、公然と存在しえなくなっていた事実を無視しています*2。当時すでに公娼制度は、国家公認による人身売買、自由拘束による強制、人権の蹂躙、奴隷制度、重大な人道問題などと現在の慰安婦制度への批判と変わらぬ批判がされていました。


当時の認識を以下にまとめてみました。


1916(大正5)年6月4日 〜 1916年6月14日までの連載記事、第1回
京都日出新聞
「花柳病及び性慾より見たる公娼問題 (上) 医学博士 松浦有志太郎氏談」

(前略)
公娼制度は人権を蹂躪し倫理を無視したものであって、人権上及び風教道徳の上から見て其の存置の理由がない
(中略)
しかるに反対論者(公娼存置論者)の多くは皆言う、公娼の廃止は誠に理想としては至極賛成であるが現実に於て必要であるを如何せんと云うにある、そして余等の説を以て空論であるとし現実の前には理想が何の役に立とうと云う口吻である、
(中略)
泰西(たいせい:西洋諸国)に於ける奴隷制度の如きも之れを廃するには随分骨の折れたことであったであろう、それも廃するまでは理想であったが、廃止さるれば、それが現実である、斯く国家が断行するの意志さえあらば必ずしも至難不可能のことでは無い、何ぞ単(ひと)り我国の奴隷制度である公娼を廃止することのみが不可抗力の現実であろうや、彼の反対論者(公娼存置論者)達は何が故に此の不正不議である現実を永久に固守せんとするのであろう、現実を以て最大権威であるとして之れを是認し敢て之れを改革しようとせないならば、如何して吾々人類社会が向上進歩することが出来よう、反対論者たる永井医学博士は四月の雑誌『新日本』紙上に於て、歴史上には古るくから淫売婦が存在したものであるから今日之れを排除するのは困難であると云われたが、歴史が如何に古るいとて其れが将来永久に存在の理由とはなるまい、社会は人智の開発するに従って人権は尊重せられる、奴隷の売買の如きは全然廃棄せられて居る、公娼問題のみが歴史に依って永久に存置せられねばならぬ理由はない(以下略)


(新聞記事文庫 - 神戸大学付属図書館:http://www.lib.kobe-u.ac.jp/das/jsp/ja/ContentViewM.jsp?METAID=10056401&TYPE=HTML_FILE&POS=1より引用)


1919(大正8)年1月27日
大阪毎日新聞
「時局と宗教問題 愛の精神を以て一切の社会問題を解決せよ 山室軍平

(前略)
日本の公娼制度は、立派な事実上の奴隷制度である、所謂前借金は依然として、昔ながらの身代金である
(中略)
貸座敷業者は斯くして勝手な貸借関係を作製し、詐欺をして人の娘を喰物にして居るのである。又私共の同胞姉妹を奴隷として虐使して居るのである、西洋諸国では今や婦人の位地が大に認められ、英国の如き保守的の国でさえ、今度は六百万の婦人が新に選挙権を獲得したという世の中に、日本には右述ぶる如き無類の奴隷制度が、公々然として政府の保護の下に行われて居るのである、之が若し諸君の娘や妹の上であったら能く其の儘(まま)に棄て置き得るであろうか、私共は茲に大に愛の精神の発揮せられねばならぬ方面を見出すのである。(以下略)


(新聞記事文庫 - 神戸大学付属図書館:http://www.lib.kobe-u.ac.jp/das/jsp/ja/ContentViewM.jsp?METAID=10067531&TYPE=HTML_FILE&POS=1より引用)


この後、1920年代に入ると、帝国議会には廃娼法案が提出され、大きな議論を巻き起こします。その背景には、国際連盟のもとで1921年に調印された「婦人及児童ノ売買禁止ニ関スル国際条約」の存在がありました。

これは売春を目的とした女性・子どもの人身売買を国内はもちろん国際間においても禁止するもので、その対象は満21歳未満とされていました。しかし日本では娼妓取締規則において満18歳以上の女性に売春を認め、事実上、前借金という名目での人身売買が横行していたため、1921年10月、原敬内閣は年齢条項の保留と、朝鮮・台湾・樺太・関東州(満州の一部)など植民地・准植民地の対象からの除外を条件にこの国際条約に調印し、そして条約は1925年9月16日に批准されました。これに対し年齢条項の保留には国内で批判が起こり1927年、政府は年齢条項の保留を撤回しました。

こうしたなか、公娼制度の存在そのものを問題にする世論は高まります。廃娼は政治問題として浮上したのでした。この時期の「外務省記録」を分析した小野沢あかねは、「外務省のみならず内務省をも、公娼制度を将来抜本的に改革する必要があるとの認識に至らせた」(小野沢あかね「国際連盟における婦人および児童売買禁止問題と日本の売春問題 - 一九二〇年代を中心として」)と指摘しています。

(参考:藤野豊『性の国家管理 - 買売春近現代史』不二出版,2001年,p.81 第二章 廃娼運動の高揚と「花柳病」問題 第四節 「廃娼法案」の登場)


1925(大正14)年8月29日
東京朝日新聞
社説「婦人売買禁止条約 公娼は廃止できぬか」

公衆衛生の為と云ふか。良家の婦女の貞操保護の為と云ふか。人間は決して手段であってはならぬ。五万の婦人の肉と心を犠牲とし人身売買自由拘束の事実を国家が公認する制度は、百の陳弁を以つても許すことは出来ないはずである人道を叫ぶもの、社会改良を唱ふるもの、婦人の権利を主張する者が我が国にあるならば、此の如き制度は、国際連盟総会からの注意を受けるよりも前に自ら廃止すべきである。繰返して云ふ専ら売春を業とする婦女子と、婦女の売買により生活する営業者を、国家が法を以て公認し保護する事実は、文明国の名誉、国家の倫理よりして一日も存在を許し難いものである。吾人は此の機会が、公娼廃止運動ぼつ興と成功の機会であらんことを望む。


藤野豊『性の国家管理 - 買売春近現代史』不二出版,2001年,pp.93-94より引用)


公娼制度を「必要悪」とする論理の延長線上に慰安婦制度がつくられていくわけですが、この社説から100年近く経った現在、日本政府が国連の委員会から慰安婦問題に関して様々な勧告や注意を受けている現状*3を思うと、感慨深いものがあります。


1925(大正14)年9月9日
国民新聞
社説「婦人売買禁止と留保」

  一   
婦人売買禁止条約に対して我が政府のとつた措置は如何なる点から観ても、決して認容すべからざる近来の一大失態である。それも事前に於て十分に考慮するの余裕がなかつたとか、若しくは咄嗟のあひだに、誤つてあのやうな失錯をしでかしたとか云ふことであれば、それは多少情状酌量の余地もあらう。然るに今回問題になつた婦人売買禁止条約は1921年に成立したもので、それ以来すでに満4年を経過してゐる。即ち政府としては満4年間考慮に考慮を重ねた上で、今回いよいよ批准の手続きをとることになつたのである。然(し)かも満4年間、政府が考慮に考慮を重ねた結果が最近、枢密院に於て問題となつた2個の留保であると云ふに至つては、実に御念の入つた一大失態と云はねばならぬ。
  二   
婦人売買禁止条約の目的とするところは「醜業に従事せしむる目的を以て未成年の婦女を誘拐し誘引し、若しくは拐去したもの」を処罰するにある。これは何人も異議のあらう筈はない。そして1921年の条約では、1910年の条約に売買の目的物たる婦人の年齢を満20歳としてあつたのを満21歳と訂正したのである。満20歳を引き上げて満21歳とした理由は、これによつて更に婦人売買の範囲を制限せんとするにあるは勿論であつて、此の年齢の引上を規定した第5条こそ実に本条約の生命である。従つて我が政府として1921年の国際条約に加入すると云ふならば、よろしく此の趣意にもとづき、全くの無条件で加入するが当然であつた。

 三
政府は満21歳とすれば国内法に抵触するかの如く云つてゐるが、これは全然事実を無視したる弁解である。此の場合、国内法と云ふのは刑法を指すことは勿論である。然るに我が刑法は第224条、第225条及び第226条に於て、誘拐其の他の手段により未成年者を帝国外に移送するものに対し、之を処罰することを規定してゐる。即ち未成年者の誘拐に対してこれを保護することは明らかに我が国内法の命ずるところである国内法との関係上、満21歳を18歳に引下げねばならぬ理由はすこしもない、また我国に於ては公娼制度がおかれてあるばかりでなく、其の方面に於ては満18歳を以て標準年齢としてゐるので、政府は此等の事情に鑑み、それと釣合を取る必要上、年齢の引下げを条件としたのであると云ふ説もあるが、若しさうだとすれば、其の結果は少数なる営業者の利益を保護するために国家の対面を犠牲に供して顧みざる言語道断のやりかたと云はねばならぬ。

 四
元来、婦人売買禁止の如きは重大なる人道問題であつて、それがだんだん国際問題として取り扱はれるやうになつたことは1921年の国際条約が成立するに至つた経路(ママ)を見ても明白である。即ち1921年の国際条約の前には1910年の国際条約があり、1910年の国際条約の前には1904年の国際条約がある。即ち此等の3条約が相集まつて婦人売買禁止に関する国際条約の三部を作成してゐるある。然かも此等の条約が成立したのは、表面に於ても裏面に於ても、人道論者の大なる努力の賜である。日本は比較的おくれて此等の会議に参加したのであるが、然し政府にして、より多くの道義的観念を持つてゐたならば、たとひおくれたりとは云へ、あのやうな留保をなす以外多少なりとも列国から感謝されるやうな積極的行動に出づることが出来たであらう。然し今となつては、もはや云つても仕方がない。ただ政府としては今回の失態を鑑みて、よろしく自ら其の将来を戒むべきである。「近き将来、適当の機会に於て2個の留保を撤回する」だけでは、決して政府の罪ほろぼしにはならない。


(「従軍慰安婦」問題 資料NO4 婦女売買関係条約と報道:http://hide20.blog.ocn.ne.jp/mokei/2012/05/post_33d7.htmlより引用)


1926(大正15)年4月28日
福岡日日新聞 社説

本問題は、単なる事務的見地より取り扱ふべき問題にあらず、人類道徳の最高理想に立ち、国際社会厳粛なる体面論より直視達観すべきもので、些々(しょうしょう)たる取締問題の如きは、根本方針の決定に、多くの交渉がない内務省が『現行法規を此(こ)のままとして行政官の運用上娼妓保護の実を挙ぐるの可否』を問はんとするは、殆ど問題の価値なきもので、少しく今日の実際を知るものは行政官の手心に於(おい)て、娼妓を保護すると云ふが如き、断じて実行不能の事であって、事の結果は、一方には却(かえ)って娼妓に対する実力上の厭迫(えんぱく)を弛(ゆる)め、他方には現在に於いてあるが如く、益々(ますます)行政官の腐敗墜落を来たすに終わる事は、火を見るよりも明らかである。又取締法を改廃して、少しくらい自由を増し、保護を加ふると云ふも、遊郭と云ふ組織の存在する間は、到底保護の実を挙げ難きは、何人も看取せざるを得ぬ。自由廃業と云ふ法律上の決定が、今日如何(いか)に取扱はれつつあるかを知るものは、少しく自由を増し、保護を加ふると云ふが如き、児戯(じぎ)に等しき題目に、一瞥(いちべつ)をも興(あた)へぬであろう。
要するに、問題は、公娼と称する奴隷制度を存続せしむるか、廃止するかである。全国五萬の可憐なる同胞子女を、鉄鎖に繋いで、公然として姦淫することを、国家の名に於いて、許可するや否やである


国立国会図書館のデジタル化資料:http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1018722:川崎正子『公娼制度撤廃の是非 – 諸方面よりの総合的研究』婦人新報社,1926(大正15)年6月23日,pp.58-59より引用)


わかりやすく書くと、娼妓取締規則をそのままにして行政官が娼妓を保護するといっても、そんなことは実行不可能なことであり汚職を招くだけである、また、公娼制度の実態を知る者にいわせれば、遊郭という組織が存在するうちは現在の法規定を改め自由や保護を少し加えたぐらいで成果を上げるなんてことも難しく、問題を解決するには公娼制度と称する奴隷制度を国が許可するか止めるかの選択肢しかない、といった感じでしょう。


1926(大正15)年5月5日
國民新聞 社説

公娼の悪い所は事実に於いて自分の意志ではなく全く他人に強制せられて其の身を売る、而して政府が公然之を認めると云ふ其の主義精神が根本に於いて非倫、残酷、非人情であるからである


国立国会図書館のデジタル化資料:http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1018722:川崎正子『公娼制度撤廃の是非 – 諸方面よりの総合的研究』婦人新報社,1926(大正15)年6月23日,pp.60-61より引用)


公娼制度の悪い所は、自由意志ではなく強制されて身を売らされていること、そして政府が公然之を認めてることが根本に於いて残酷だからである、と批判されています。慰安婦制度について強制連行の有無だけが問題だ!を連呼して矮小化する現在の風潮よりも、当時のほうが何が問題の本質かしっかり捉えているというのがなんとも…。


1927(昭和2)年3月1日
第五二回帝国議会に提出された「公娼制度並廃止ニ関スル法律案」理由書

公娼制度は一種の奴隷制度にして人道に悖(もと)り風紀衛生教育上有害無益の悪制度


(藤野豊『性の国家管理 - 買売春近現代史』不二出版,2001年,p.85より)


1928(昭和3)年12月8日
福井県会(県議会)で採択された公娼廃止の決議

公娼制度は人格の尊厳を知らさりし封建時代の遺風にして、風紀・衛生・教育上有害無益なるのみならず、国際条約を無視し帝国の体面を傷くる悪制度なれば、速に廃止を実現されんこと望む


(出典:『福井市史』資料編 『大阪朝日新聞』昭3・12・18:http://www.archives.pref.fukui.jp/fukui/07/kenshi/T5/T5-4a5-01-02-05-05.htmより引用)


1928(昭和3)年12月8日
埼玉県会「公娼廃止決議」の英断と東京日日社説での論評。【1928昭和03年12月08日/東京朝日(夕刊)】

今日まで公娼制度の存続は、人間必然の要求から出発する不可抗な制度だと考えられていたに拘わらず、この数年来公娼制度廃止の声がほとんど全国的に行きわたりつつあるのは欣ばしい。……その標榜する理由は、第一に、白奴隷の存在がいかなる事情にあっても許し得ない人道の蹂躙であり、堪え得られざる文明国の体面の汚辱だとすること、第二には、たといいかなる方便であるにせよ、風教道徳の本元であるはずの政府が、公に売淫を認むるのみか、その居住移転の自由を制限して大っぴらに営業せしむるごときは、人道を無視し家庭の平和を脅かし、ひいては社会の善風美俗を破壊する大きな矛盾であるというのにある。今回埼玉県会が「時代と相容れない」ものとして公娼制度の廃止を満場一致をもって通過したのは、思うにこれとその主義、精神を同じくするものであろう。ただ残る問題は、公娼の廃止が私娼の跋扈となり、病毒の蔓延を来すという点であるが、これは花柳病予防にカンする法律の励行と、国民自身の自制と注意に待つ外はない。
[出典:毎日コミュニケーションズ出版部編 昭和ニュース事典 第1巻、p.602.]


(戦前に日本で使われていた”白奴隷”という単語:http://ianhu.g.hatena.ne.jp/kmiura/20070720/1184951789より引用)


1930(昭和5)年 12月
神奈川県会(県議会)で採択された決議

公娼制度は人身売買と自由拘束の二大罪悪を内容とする事実上の奴隷制度である


吉見義明『日本軍「慰安婦」制度とは何か』岩波書店,2010年,pp.42-43より引用)


1931(昭和6)年2月19日
帝国議会公娼制度廃止ニ関スル法律案委員会」での浜口雄幸内閣の外務政務次官・永井柳太郎の答弁

公娼制度は)人間の人格並自由と矛盾した制度……一種の奴隷制……出来るだけ速やかに斯の如き制度が廃止せられて、人間の人格の尊厳と自由とが確認せらるる社会の建設せらるることを希望する


(藤野豊『性の国家管理 - 買売春近現代史』不二出版,2001年,p.86より)


この時期、外務省は廃娼の方針であったことがわかります。


1931(昭和6)年4月5日
報知新聞
「国際信義と公娼廃止」

日本帝国は、最初、この条約(婦人児童の売買禁止に関する条約)に加盟しながら、しかも、二十一歳という年齢の制限について、留保を求めて調印したのであった。それは今でも現に行われて居る、「娼妓取締規則」には、娼妓の年齢が、十八歳以上と規定してあるがためであったことはいうまでもない。しかし、その年齢留保を、文明国としての汚辱であるとして、当時、官民有志の間に、速にこれを撤廃すべしという主張横溢し、ついに、今日では、日本もまた、この国際条約の、完全なる加盟者となったのである。
完全なる加盟者とはなったのであるが、それはただ、単に条約に調印したというだけであって、毫も条約を実行してはいないのである。即ち、条約に調印して以来数年を経たる今日、依然として、「娼妓取締規則」の、十八歳以上の婦娘は、売淫してもよいという条項に対して、何等の改正も撤廃も行われず、十八歳以上二十一歳以下の婦娘が、彼等の中の大多数であるという事実をそのままに放置して、何等、国際信義を重んずるという国家的正義が、現れて居ないことを慨かざるを得ないのである。
今や、国際連盟は、極東方面における、婦女売買の状態を、極めて仔細に調査研究するために、調査委員を派遣することに決し、そのために、ロックフエラー財団より十二万ドルの寄附を受け、既に、三名の調査委員は、支那までやって来て居る。日本に来るのは、五月下旬か六月上旬かというのであるが、彼等が、事実上の人身売買であり、事実上の奴隷制度であって、五万有余の女性が、牢獄にもひとしい座敷に押し込められ、動物にもひとしい醜悪なる非人道なる所行を、強要せられて居る実状を調査した時、自ら称して日東君子国といって居る日本にも、また、かかる残忍非道の世界あるかに、驚き且つおそれることであろう。
否、それよりもむしろ、彼等は、婦女禁売の国際条約に、加盟調印したる世界の一等国たる日本が、全然その条約を履行せざるのみならず、かえって、これを蹂躪して、いささかもはづるところなき、厚顔と不信と不義とに憤るであろう、あきれるであろう、そうして、従来、日本を買いかぶって居たことを後悔するであろう。そうした後悔は、ついに、彼等をして、日本に対する軽侮の風を、世界にみなぎらしめるにも至るであろう。


(報知新聞記事に見る1931年当時の公娼制度に対する見方:http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20121001/1349105441より引用)


当時の公娼制度を批判する意見のなかには、人権よりも「文明国としての国家の体面を汚す」という理由の方が強調されたり、性病を「花柳病」と呼称した当時の認識からもわかるように存娼論者だけでなく廃娼論者のなかにも娼婦を性病感染の元凶とみなす賤視が含まれていたり、植民地(朝鮮・台湾)の女性たちへの視点が欠落していたりと、様々な問題や限界が含まれるものの、戦前において、公娼制度は何の問題はなく当然のものとまで言えなくなっていたことは事実であり、「公娼制度というものが全く理解できず、現在の感覚で過去を断罪しようと「公娼制度自体が、女性の人権侵害だったのだ!」と主張する者がのさばるようになってしまった*4」といったコメントは歴史オンチも甚だしいというしかありません。


関連リンク
慰安婦問題の討論・秦郁彦vs吉見義明、秦郁彦は歴史家の名を利用するのやめたらどうだろう - Transnational History 慰安婦問題の討論・秦郁彦vs吉見義明、秦郁彦は歴史家の名を利用するのやめたらどうだろう - Transnational History
性奴隷の定義を無視し「慰安婦は性奴隷ではない」と叫んでも反論になってない - Transnational History 性奴隷の定義を無視し「慰安婦は性奴隷ではない」と叫んでも反論になってない - Transnational History


参考書籍

性の国家管理―買売春の近現代史
藤野 豊
不二出版
売り上げランキング: 539,921

*1:2013年5月23日:維新の平沼氏「従軍慰安婦は“戦地売春婦”」 ― スポニチ Sponichi Annex 社会 維新の平沼氏「従軍慰安婦は“戦地売春婦”」 ― スポニチ Sponichi Annex 社会

*2:建前と実態には乖離があったとはいえ戦前において、全国47都道府県の半数近い21(22?)の県議会で公娼制度を廃止する廃娼議決が採択され、公娼制度を廃止した廃娼県は14県にのぼっていました。

*3:参照:(1)国連・社会権規約委員会が慰安婦に対するヘイトスピーチを防止するよう勧告:http://d.hatena.ne.jp/dj19/20130523/p2、(2)国連・拷問禁止委員会が日本政府に対し公人による事実の否定や元慰安婦を傷つける試みに反論するよう勧告:http://d.hatena.ne.jp/dj19/20130601/p1

*4:http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20130629/p1#cのPPP氏のコメント

慰安婦問題の討論・秦郁彦vs吉見義明、秦郁彦は歴史家の名を利用するのやめたらどうだろう

6/13、TBSラジオ番組で秦郁彦氏と吉見義明氏による「従軍慰安婦」問題についての15、6年ぶりの討論があった。取り上げるのが遅くなったが秦郁彦氏の誤魔化しや詭弁があまりに酷いので批判しておこうと思う。

2013年06月13日(木)「秦郁彦さん、吉見義明さん、第一人者と考える『慰安婦問題』の論点」(対局モード)- 荻上チキ・Session-22
http://www.tbsradio.jp/ss954/2013/06/20130613-1.html

ポッドキャスティングで聴く
http://podcast.tbsradio.jp/ss954/files/20130613main.mp3
Youtubeで聴く
https://www.youtube.com/watch?v=3ANBEo8Ju14


まず視聴した感想を書くと、「慰安婦」として動員された女性たちは貧しいのが通例であり、経済的にも社会的にも弱い立場にあったわけだが、こうした女性たちに対する秦郁彦氏の蔑視と冷淡さは相変わらずひどいものだった。
彼女たちが被った慰安所での性暴力、強制売春といった犯罪被害は少しも顧みられることはないし、史料の都合のいいつまみ食いと、それを全体の問題にすり替えた粗雑な否定論も目立つ。
公娼については「家族のため」にやったこと、慰安婦については「売った親が悪い」と、家父長制や昔の家制度の論理で個人の自発性や自己責任に落とし込み消化されるだけなのだ。

まぁそんな秦郁彦氏でも、吉見義明氏に従軍慰安婦の被害の実態をツッコまれると、言葉の言い換えや詭弁で誤魔化そうとしてだいぶボロが出ていた。

以下は、ラジオ番組から人身売買や性的奴隷に関する発言の一部を文字起こしたもの(時間はYoutubeによる)。

19:05 〜
秦郁彦
内地の公娼制をね、これ、奴隷だということになってくると、そうすると、現在のオランダの飾り窓だとか、ドイツも公認してますしね、それからアメリカでも連邦はだめだけれどネバダ州は公認してるんですよ。これは皆、性奴隷ということになりますね。

吉見義明
それは、人身売買によって女性たちがそこに入れられているわけですか?

秦郁彦
人身売買がなければ奴隷じゃないわけですか?志願した人もいるわけでしょ。高い給料にひかれてね

吉見義明
セックスワークをどういうふうに認めるかということについてはいろいろ議論があって難しいわけですけれど、少なくとも人身売買を基にしてですね、そういうシステムが成り立っている場合は、それは性奴隷制というほかはないじゃないですか。

秦郁彦
自由志願制の場合はどうなんですか?

吉見義明
それは性奴隷制とは必ずしも言えないんじゃないでしょうか。
秦郁彦
公娼であっても?

吉見義明
それは本人が自由意志でですね、仮に性労働をしているのであればそれは強制とは言えないし、性奴隷制とも言えないでしょうね。

20:15 〜
秦郁彦

日本の身売りというのがありましたね。それで身売りというのは人身売買だから、これはいかんということになってるんですね、日本の法律でね。

吉見義明

いつ、いかんていうことになってるんですか?

秦郁彦

人身売買、自体はマリア・ルス(マリアルーズ)号事件の頃からあるでしょ、だから。

吉見義明

それはあの〜確かにあるけれど、それは建前なわけですよね。

秦郁彦

建前にしろですね、人身売買ってのは、だいたい親が娘を売るわけですけれどね。売ったという形にしないわけですよね。要するに金を借り入れたと、それを返済するまでね、娘が、これを年季奉公とか言ったりするんですけどねその間、その〜、性サービスをやらされるっていうことなんでね
それで、娘には必ずしも実情が伝えられてないわけですね。だからね、しかし、いわゆる身売りなんですね。

荻上チキ
(着いてみたら)こんなはずじゃなかった、という手記が残っているわけですね。

秦郁彦

う〜ん騙(だま)しと思う場合もあるでしょう。ね。
(中略)
だからね。これは、う〜ん、なんていうかな、自由意志か、自由意志でないかは非常に難しいんですね。家族のためにということで誰が判定するんですか。

吉見義明

いや、そこに明らかに金を払ってですね、女性の人身を拘束しているわけですから、それは人身売買というほかないじゃないですか。

荻上チキ
ちょっと時期は違いますけれどもね、『吉原花魁日記』とか『春駒日記』とかっていう、昔の大正期などの史料などでは、親に「働いてこい」と言われたけど、実際に働いてみるまでそのことだとは思わなかったケースもあったりすると。

秦郁彦
うん、そうそう。

荻上チキ
それは、親も敢えて黙っていたかもしれないし、周りの人も「いいね、お金が稼げて」と誉のように言んだけども、内実を周りは知らなかったっていうような話は色いろあったみたいですね。
吉見義明
実際にはあれでしょ、売春によって借金を返すというシステムになってるわけでしょ?

秦郁彦
今だってそれはあるわけでしょ。

吉見義明
それは、それこそ人身売買であって、それは問題になるんじゃないですか?

秦郁彦
じゃぁ、ネバダ州に行って、あなた、大きな声でそれは弾劾するだけの勇気がありますか?

吉見義明
もしそれが人身売買であれば、それは弾劾されるべき。

秦郁彦
志願してる場合ですよ、自発的に。自発かね、その〜どこで区別するんですか?

吉見義明
何を言ってるんですか、あなたは?

秦郁彦
え?


これは当時の公娼制度に関連したやり取りだが、秦氏が当時の日本での人身売買を基礎にした公娼制度と、現在の様々な法令によって女性の人権がある程度、保護されたうえで公認されている売春を同列に語っていることにまず驚く。このやり取りを聴いただけでも、秦郁彦氏が「自由売春」と、犯罪である「強制売春」の区別がついていないことは明らかだろう。いや、わかっていてわざとそこに触れないよう回避していると見るべきか。

そもそも秦氏は1999年の著書『慰安婦と戦場の性』のなかで、公娼制度とは「まさに「前借金の名の下に人身売買、奴隷制度、外出の自由、廃業の自由すらない二〇世紀最大の人道問題」(廓清会の内相あて陳情書)にちがいなかった(同書p.36)」と公娼制度が奴隷制度であることを認めていた。
さらに同書では、「「慰安婦」または「従軍慰安婦」のシステムは、戦前期の日本に定着していた公娼制の戦地版として位置づけるのが適切かと思われる。(前書p.27)」と述べていた。

この論理なら、「公娼制度の戦地版」である慰安婦制度も同様に奴隷制度という認識になるはずである*1。ところが今回の吉見義明氏との討論では、最後まで公娼制度や慰安婦制度が奴隷制度であることを認めることはなかった。

とはいっても秦氏はこの後(後段の文字起こし部分)で、朝鮮半島から慰安婦として動員された女性たちの「大部分」が「誘拐や人身売買」の被害者であることまで認めた。そして、身売り=人身売買の被害者は「借金を返す」までの期間、身体を拘束され性行為を継続的に強要される状況にあったことも認めている。これは暗に奴隷状態であったことを認めているに等しい。

国際的な定義では、こうした他者の支配下に置かれ、自分のことを自由に決定する権利が奪われ所有物として扱われる地位や状態は奴隷状態であり、こうした状況で継続的に性行為を強要される状態を性的奴隷状態と定義しているのだから。(こちらを参照:性奴隷の定義を無視し「慰安婦は性奴隷ではない」と叫んでも反論になってない - Transnational History 性奴隷の定義を無視し「慰安婦は性奴隷ではない」と叫んでも反論になってない - Transnational History

36:26 〜
荻上チキ
前提としてそういったふうに(連れて行かれた女性が慰安所での性行為を拒否し)イヤだイヤだといった場合は、帰る自由といったものはあったんですか?
秦郁彦
借金を返せばね。借金を返せば何も問題ないわけですよ

吉見義明
え〜つまり、借金を返すまで何年間かそこ(慰安所)に拘束されるわけです。
それが性奴隷制度だっていうこと。

秦郁彦
そうすると親がね、返さなきゃいけんのですよ。親が売ったのが悪いでしょ
吉見義明
秦さんがわかってないのそこですよ。
秦郁彦
どうして?
吉見義明
借金を返せば解放されるというのであれば、それは人身売買を認めてることになるじゃないですか

53:35

吉見義明
先ほど言いましたように略取とか誘拐とか人身売買で連れて行くのがほとんどだったわけですよね。
そうして朝鮮半島で誘拐や人身売買があったということは、え〜、秦さんも認めておられるわけですね。

秦郁彦
当然ですよ。それが大部分ですよ。

吉見義明
それでたとえ業者がそういうことをやったとしても、その業者は軍に選定された業者である。で実際に被害が生じるのは慰安所ですけど、その慰安所というのは軍の施設である。軍がつくった軍の施設であるわけですね。そこで女性たちが誘拐とか人身売買で拘束をされているわけですね。
当然、軍に責任があるということになると思う。


このやり取りでは吉見氏が、人身売買により身体を拘束された女性たちが借金を返すまでは解放されず性行為を強制されるシステムは性的奴隷制度であると指摘するが、秦氏は「親が売ったのが悪い」と親の責任にして話を逸らしている。
しかしこの後で秦氏朝鮮半島では「誘拐や人身売買」のケースが「大部分」だったことを認めており、そうであるなら貧困により生活が困窮し娘を売った親も、その多くは偽りの説明を告げられ騙されていたと推測するのは難しいことではないだろう。

ビルマでの尋問調書『日本人捕虜尋問報告 第49号』には次のように記述されている。

1942年5月初旬、日本の周旋業者たちが、日本軍によって新たに征服された東南 アジア諸地域における「慰安役務」に就く朝鮮人女性を徴集するため、朝鮮に到着した。この「役務」の性格は明示されなかったが、それは病院にいる負傷兵 を見舞い、包帯を巻いてやり、そして一般的に言えば、将兵を喜ばせることにかかわる仕事であると考えられていた。これらの周旋業者が用いる誘いのことばは、多額の金銭と、家族の負債を返済する好機、それに、楽な仕事と新天地――シンガポール――における新生活という将来性であった。このような偽りの説明 を信じて、多くの女性が海外勤務に応募し、2、3百円の前渡金を受け取った。

日本人捕虜尋問報告 第49号 1944年10月1日
http://a777.ath.cx/ComfortWomen/proof_jp.html


長くなるので文字起こしの引用は省略するがYouTubeの40分(http://youtu.be/3ANBEo8Ju14?t=40m)ごろから、秦氏は呆れたことに上のビルマでの捕虜尋問調書を持ち出し、慰安婦がどれだけ楽だったかを力説している! しかし吉見氏にその解釈の間違いをことごとく反論され、みごと撃沈しているが(その討論の文字起こしはこちら)。


最後に秦氏の詭弁を批判しておこう。

今回の討論では秦氏慰安婦の問題に直接絡めて言及したわけではないが、このエントリの冒頭部分の文字起こしにあるように「秦:人身売買がなければ奴隷じゃないわけですか?志願した人もいるわけでしょ。高い給料にひかれてね。」だとか、吉見氏の発言「人身売買であれば、それは弾劾されるべき。」に対し「秦:志願してる場合ですよ、自発的に。自発かね、その〜どこで区別するんですか?」などと、「志願」や「自発的」な側面があれば人身売買や奴隷に当たらないとの認識を披露している。そしてつい最近も産経新聞への寄稿で慰安婦募集の広告に「応募者は少なくなかったろう」などと述べているぐらいだから*2、「自発」や「志願」なら人身売買や奴隷とは呼べず軍の責任も免責されると考えているのだろう。
しかしこの「自発的」なのか「志願」なのか、といった問題設定自体が、初めから問題を否認するための偽りの問題設定、あるいはすり替えと言わざるを得ない。


日本政府も署名している国連の「人身取引(人身売買)補足議定書」の定義は次のようになっている。


人身取引(人身売買)の定義
Protocol to prevent, suppress and punish trafficking in persons, especially women and children, supplementing the United Nations Convention against Transnational Organized Crime
和訳:国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人、特に女性及び児童の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書
英語原文:http://www.unodc.org/documents/treaties/UNTOC/Publications/TOC%20Convention/TOCebook-e.pdf
外務省 和文テキスト:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/treaty162_1.html
(日本政府はtraffickingを人身売買ではなく人身取引と和訳している。)

Article 3. Use of terms
第3条
(a) “Trafficking in persons” shall mean the recruitment, transportation,transfer, harbouring or receipt of persons, by means of the threat or use of forceor other forms of coercion, of abduction, of fraud, of deception, of the abuse of power or of a position of vulnerability or of the giving or receiving of payments or benefits to achieve the consent of a person having control over another person, for the purpose of exploitation. Exploitation shall include, at a minimum, the exploitation of the prostitution of others or other forms of sexual exploitation, forced labour or services, slavery or practices similar to slavery, servitude or the removal of organs;
(a) 「人身取引」とは、搾取の目的で、暴力その他の形態の強制力による脅迫若しくはその行使、誘拐、詐欺、欺もう、権力の濫用若しくはぜい弱な立場に乗ずること又は他の者を支配下に置く者の同意を得る目的で行われる金銭若しくは利益の授受の手段を用いて、人を獲得(募集)し、輸送し、引き渡し、蔵匿し、又は収受することをいう。搾取には、少なくとも、他の者を売春させて搾取することその他の形態の性的搾取、強制的な労働若しくは役務(サービス)の提供、奴隷化若しくはこれに類する行為、隷属又は臓器の摘出を含める。
(b) The consent of a victim of trafficking in persons to the intended exploitation set forth in subparagraph (a) of this article shall be irrelevant where any of the means set forth in subparagraph (a) have been used;
(b) (a)に規定する手段が用いられた場合には、人身取引の被害者が(a)に規定する搾取について同意しているか否かを問わない。
(c) The recruitment, transportation, transfer, harbouring or receipt of a child for the purpose of exploitation shall be considered “trafficking in persons” even if this does not involve any of the means set forth in subparagraph (a) of this article;
(c) 搾取の目的で児童を獲得し、輸送し、引き渡し、蔵匿し、又は収受することは、(a)に規定するいずれの手段が用いられない場合であっても、人身取引とみなされる。
(d) “Child” shall mean any person under eighteen years of age.
(d) 「児童」とは、18 歳未満のすべての者をいう。

(強調は引用者による)


一読してわかるように、搾取の目的で、暴力、誘拐や詐欺、同意を得る目的で行われる金銭の授受、弱い立場に乗ずるなどの手段が用いられている場合、自発的どころか、たとえ本人が同意している場合であっても人身売買に該当 (b項)することに変わりはないのである。

また、「自発的」や「志願」といった事実が一部にあったとしても、それによって女性たちが「慰安婦」になることを「同意」していたと見なすことはできない。なぜなら朝鮮半島からの動員では職種を偽ったり明かさずに甘言で騙して国外へ連れて行く誘拐や就業詐欺(人身売買を含む)といったケースが数多く報告されており*3秦氏朝鮮半島では「誘拐や人身売買」のケースが「大部分」だったことを認めているのだから。

まぁ日本軍の場合、上記の人身売買の定義にある、獲得(募集)、輸送、収受といった3つの過程すべてにおいて組織的に関与・介入しており、国家責任が問われないよう見せかけるには秦さんもこうした詭弁を弄するしか選択肢がないのだろう、とは思うが。

*1:秦郁彦氏は慰安婦制度を公娼制度へと一般化させようと差異を無視している。一例をあげるなら、公娼制度では建前上とはいえ法規定(娼妓取締規則)により「廃業の自由」が保障されていた(もちろん実態は違っていたのだが)、しかし慰安婦制度にはそうした廃業の自由を保障する法規定すら存在しなかった。

*2:こちらを参照:秦郁彦氏は従軍慰安婦の話題になるとバカになる - 誰かの妄想・はてな版 秦郁彦氏は従軍慰安婦の話題になるとバカになる - 誰かの妄想・はてな版

*3:誘拐、詐欺、人身売買の数多くの事例はこちらを参照:日本軍将兵の証言・手記にみる慰安婦強制の実態 - Transnational History 日本軍将兵の証言・手記にみる慰安婦強制の実態 - Transnational History。他にも、元朝鮮人慰安婦19人による証言集でも、甘言に騙され連れて行かれたケース(人身売買を含む)が最も多くを占める。参照『証言 強制連行された朝鮮人慰安婦たち』明石書店 ,1993年

性奴隷の定義を無視し「慰安婦は性奴隷ではない」と叫んでも反論になってない


出典:上海派遣軍司令部編纂『日支事変 上海派遣軍司令部記念写真帖』1938年2月刊
1938年1月、正月早々、南京に開設された慰安所に巻脚絆(ゲートル)を外し並ぶ兵士たち


従軍慰安婦にされていた女性たちの実態が「“sex slave”性的奴隷」「“Sexual slavery”性的奴隷状態」であることは国際刑事裁判所ローマ規程や、国連の人権委員会で採択された文書の定義をみても否定できない事実なんだけど、日本国内では自分勝手に強制連行と結びつけたMy定義で否定するトンデモ論がはびこっています。


こんな感じです。

「強制連行を認めると、世界からは日本だけが特殊な性奴隷を活用したと評価されるのだ。」(2013年5月17日 橋下徹 Twitter*1

「なぜ日本だけが性奴隷を活用していたと攻撃されるのか。それは日本だけが女性を強制連行していたとされているからだ。アメリカは、慰安婦を強制的な性奴隷と表現している。」(2013年5月17日 橋下徹 Twitter*2


ようするに「強制連行の事実はない、それなのに強制連行して性奴隷にしたことにされている!これは不当だ!」といったレベルのものです。

また橋下徹氏は「なぜ日本だけが攻撃されるのか」などと怒っていますが、90年代の初めから旧ユーゴスラビア内戦、ルワンダ内戦での女性に対する暴力や性的奴隷化が問題にされ、その後も、ビルマ軍政下*3グアテマラ戦時下*4コンゴ東部*5などで女性たちが性奴隷状態にされていたことが問題にされています。そうしたことを知らないんでしょうかね。

んで、このレベルの否定論が大新聞である読売新聞、産経新聞などでも主張され(こちらの記事*6)橋下氏のツイッターと同様の理屈が展開されています。


これがいかにトンデモかは、以下の国際機関の性的奴隷の「定義」をみれば明らかです。


日本も締約国である国際刑事裁判所データベース及び解説に載せてある「性的奴隷の定義」の要旨
(英語原文と和訳は後述を参照)

  • 「奴隷化すること」という用語については、従来から用いられてきた意味に限定されない。
  • 人を「奴隷化すること」とは、人に対して所有権に伴ういずれか又はすべての権限を行使することをいい、人 ー特に女性及び児童ー の取引(人身売買)の過程でそのような権限を行使することを含む。
  • 人を性的奴隷状態におくことは、奴隷化することの一形態であり、本人の自己決定権、移動の自由および本人の性的活動に関する事柄に対する決定権の制限を特徴とする。
  • 性的奴隷という犯罪は、継続的に性行為を強要されることであり、最終的に強制的な性的活動に至る強制労働も含まれる。
  • 性的奴隷状態とは、強制売春の形態のすべてではないにしても、その大部分を占める。


1998年、国連の人権小委員会で採択されたマクドゥーガル報告書の「性的奴隷の定義」の要旨
英語原文と和訳および解説は奴隷状態の定義 - 従軍慰安婦問題を論じる 奴隷状態の定義 - 従軍慰安婦問題を論じるを参照

第2章 犯罪の定義
第2節 奴隷制(性的奴隷状態を含む

  • 奴隷制の定義は1926年の奴隷条約において明記され、その定義は「奴隷状態とは、所有権を伴う権力の一部もしくは全部が一個人に対して行使されている状況もしくは状態である」、レイプなどの性暴力の形態による性的接触も含む。
  • 「性的(sexual)」という用語はこの報告書では奴隷制の一形態を説明する形容詞として使われており、別個の犯罪を示すものではない。あらゆる意味で、またあらゆる状況で、性的奴隷制は奴隷制である。性的奴隷制には、女性や少女が「結婚」を強要されるケースや、最終的には拘束する側から強かんなど性行為を強要される家事労働その他の強制労働も含まれる。
  • 奴隷制という犯罪は政府の関与または国家の行為がなくても成立し、国家の行為者によるものであろうと民間の個人によるものであろうと、国際犯罪に相当する。さらに、奴隷制とは人を所有物として扱うことを指すが、その人が金銭で売買ないしは人身取引されていないという事実をもって無効となることは決してない。
  • 奴隷制の定義には、自己決定権、移動の自由、自己の性活動に関する事柄の決定権の制限などの概念も内在している。個人的には被害を受ける相当の危険を犯して奴隷状態から逃げることができたとしても、それだけで、奴隷制ではないと解釈してはならない。
  • 奴隷制にはまた、すべてではないとしても大半の形態の強制売春も含まれる。「強制売春」とは一般に、他人に支配されて性的行為を強要される状態を意味する。
  • 原則として、武力紛争下では、強制売春と呼びうる実態はたいていの場合、性的奴隷制に相当する。


まとめると、

前借金という名の人身売買により身体を拘束され、自分のことを自由に決定する権利および移動の自由などが一部あるいは全部制限され、隷属状態で所有物として扱われる状態を奴隷状態と言います。人身売買の事実がなかった場合でも、最終的に慰安所のような拘禁施設で継続的に性行為を強要(強制売春)される状態ならば性奴隷状態と言います。

さらに「最終的に強制的な性的活動に至る強制労働も含まれる。」とありますが、1996年に、国際労働機関(ILO)の条約勧告適用専門家委員会は、慰安所での女性たちの状態が1930年の「強制労働条約 第29号」(日本政府は1932年に批准)に違反していると認定しています。


英字新聞などを読んでても、アジア、中東、アフリカにとどまらず、欧米などでも人身売買(Human Trafficking)によって売春をさせられていた女性を、強制売春(Forced prostitution)か性的奴隷状態(Sexual slavery)の被害者として表記するのは、わりと一般的なんじゃないでしょうかね。

で、強制連行の有無ってこの定義と何か直接、関係あんの?


参照


ICL Database & Commentary
国際刑事裁判所ローマ規程データベースおよび解説
http://www.iclklamberg.com/Statute.htm
(以下の条文の和訳は、外務省HP:和文テキスト「国際刑事裁判所に関するローマ規程」http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/treaty166_1.pdf による。脚注の和訳は翻訳家のid:Stiffmuscleさんによる。)

(以下、条文)


The Rome Statute
ローマ規程
Article 7 Crimes against humanity
第7条「人道に対する犯罪(人道に対する罪)」


1.  1項

(c) Enslavement;[24]
(c) 奴隸化すること[24]


(g) Rape,[28] sexual slavery,[29] enforced prostitution,[30] forced pregnancy,[31] enforced sterilization,[32] or any other form of sexual violence of comparable gravity;[33]


(g) 強姦[28] 、性的な奴隸(性的奴隷状態)[29]強制売春[30]、強いられた妊娠状態の継続[31] 、強制断種[32]、その他あらゆる形態の性的暴力であってこれらと同等の重大性を有するもの[33]


2. 2項

(c) "Enslavement" means the exercise of any or all of the powers attaching to the right of ownership over a person and includes the exercise of such power in the course of trafficking in persons, in particular women and children;


(c)「奴隷化すること」とは、人に対して所有権に伴ういずれか又はすべての権限を行使することをいい、人 ー特に女性及び児童ー の取引(人身売買)の過程でそのような権限を行使することを含む。


(以下、脚注の解説)


奴隸化すること[24]
[24] The term "enslavement" should not be limited to its traditional sense. According to article 7(2)(c) enslavement means the exercise of any or all of the powers attaching to the right of ownership over a person and includes the exercise of such power in the course of trafficking in persons, in particular women and children.


[24] 「奴隷化すること」という用語については、従来から用いられてきた意味に限定すべきでない。
7条2項(C)において、奴隷化することとは、「人に対して所有権に伴ういずれか又はすべての権限を行使することをいい、人(特に女性及び児童)の取引(人身売買)の過程でそのような権限を行使することを含む」と記述されている。


性的な奴隸(性的奴隷状態)[29]
[29] Sexual slavery is particular form of enslavement which includes limitations on one's autonomy, freedom of movement and power to decide matters relating to one's sexual activity. Thus, the crime also includes forced marriages, domestic servitude or other forced labor that ultimately involves forced sexual activity. In contrast to the crime of rape, which is a completed offence, sexual slavery constitutes a continuing offence.
 In Katanga and Chui, Decision on the confirmation of charges, 30 September 2008, para. 431, PTC I held that "sexual slavery also encompasses situations where women and girls are forced into 'marriage', domestic servitude or other forced labour involving compulsory sexual activity, including rape, by their captors. Forms of sexual slavery can, for example, be practices such as the detention of women in 'rape camps' or 'comfort stations', forced temporary 'marriages' to soldiers and other practices involving the treatment of women as chattel, and as such, violations of the peremptory norm prohibiting slavery."


[29] (人を)性的奴隷状態におくことは、奴隷化することの一形態であり、本人の自己決定権、移動の自由および本人の性的活動に関する事柄に対する決定権の制限を特徴とする。このことから、性的奴隷という犯罪は、最終的に強制的な性的活動に至る強制結婚、家庭内使役または強制労働も含まれる。
レイプという犯罪では、犯罪行為が既に完遂されているのとは対照的に、性的奴隷状態では犯罪行為は継続中である。

コンゴの)カタンガ案件及びチュイ案件に対して、(国際刑事裁判所の)PTCI(Pre-Trial Chamber I: 予審第一法廷)が2008年9月30日に行った嫌疑の確認の決定(decision on the confirmation of charges )の431段落において以下のように明言している。「性的奴隷には、女性や未成年女性がその捕獲者によって強制的な性的活動を含む『結婚』、家庭内使役またはその他の強制労働を強いられている状態も含まれる。

性的奴隷状態の形態には、例えば、『レイプセンター』や慰安所』内での女性の拘禁将兵との一時的な強制『結婚』、または女性を所有物として扱うその他の慣習も含めることができ、それ自体が人を奴隷状態に置くことを禁じた強行規範に違反している。」


強制売春[30]
[30] It is argued that sexual slavery encompasses most, if not all forms of forced prostitution. In comparison with rape and sexual slavery, enforced prostitution can either be a continuing offence or constitute a separate act.


[30] 性的奴隷状態とは、強制売春の形態のすべてではないにしても、その大部分を占めることが明らかになっている。
強姦や性的奴隷と異なり、強制売春は、継続中の犯罪である場合もあれば、法律が別途存在する場合もある。

(強調は引用者)

*1:Twitter / t_ishin: 日本の知識人よ。慰安婦問題に関して、目を覚ませ。強制連行の有 ... Twitter / t_ishin: 日本の知識人よ。慰安婦問題に関して、目を覚ませ。強制連行の有 ...

*2:Twitter / t_ishin: 日本をはじめ世界各国が戦場の性において、女性を活用し、重大な ... Twitter / t_ishin: 日本をはじめ世界各国が戦場の性において、女性を活用し、重大な ...

*3:2011年1月号 『法学セミナー』ビルマ女性国際法

*4:グアテマラ|かつて性奴隷にされた女性たちが証言台に立つ |IPS Japan グアテマラ|かつて性奴隷にされた女性たちが証言台に立つ |IPS Japan

*5:国連:コンゴ東部で大量の虐殺や強姦 止めるための行動を | Human Rights Watch 国連:コンゴ東部で大量の虐殺や強姦 止めるための行動を | Human Rights Watch

*6:「欧米諸国では、慰安婦を「性奴隷」(sex slave)と表現するケースが目立つ。この表現は、92年に慰安婦問題が外交問題化した際、「強制連行」だったとの記事や証言(その後信ぴょう性は否定)が出回ったため、「売春婦」(prostitute)とは異なるとして広まったとされる。(2013年5月21日 読売新聞)」橋下氏が慰安婦発言の撤回を拒否する理由 : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞) 橋下氏が慰安婦発言の撤回を拒否する理由 : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

慰安婦問題における公人からの繰り返される事実の否定、被害者を傷つける試みに、日本政府は反論せよ、国連・拷問禁止委員会が勧告


2013/5/31
国連委、慰安婦中傷の阻止勧告 日本政府に要求 - 47NEWS(よんななニュース) 国連委、慰安婦中傷の阻止勧告 日本政府に要求 - 47NEWS(よんななニュース)

 【パリ共同】国連の人権条約に基づく拷問禁止委員会(ジュネーブ)は31日、対日審査に関する勧告を発表し、従軍慰安婦は必要だったとの日本維新の会共同代表、橋下徹大阪市長の発言を念頭に「政府や公人による事実の否定、元慰安婦を傷つけようとする試みに反論するよう」日本政府に求めた。

 5月21、22日の対日審査で委員会は「大阪市長の発言」に繰り返し言及していた。

 日本政府は慰安婦問題について、太平洋戦争での出来事で、1987年に発効した拷問禁止条約の対象にならないと主張したが、拷問禁止委は「法的な責任を認め、関係者を処罰する」よう勧告した。【共同通信

2013年6/1
朝日新聞デジタル:慰安婦問題、国連委が勧告 「日本の政治家が事実否定」 - 国際 朝日新聞デジタル:慰安婦問題、国連委が勧告 「日本の政治家が事実否定」 - 国際

 【ジュネーブ=前川浩之】国連の拷問禁止委員会は31日、旧日本軍の慰安婦問題で「日本の政治家や地方の高官が事実を否定し、被害者を傷つけている」とする勧告をまとめた。橋下徹大阪市長らの最近の発言を念頭に置いたものとみられる。日本政府に対し、こうした発言に明確に反論するよう求めている。

 拷問禁止委員会は、人間の非人道的な取り扱いを禁止する条約を守っているかどうかを調べる国際人権機関。慰安婦を条約上の被害者だとしている。10人の委員が数年に1回のペースで各国を審査する仕組みで、1999年に条約を締結した日本は、5月21、22の両日、6年ぶり2回目の審査を受けた。

 勧告は、慰安婦問題について「国会議員を含む政治家や地方政府高官によって、事実を否定する発言が続いている」と批判。日本政府がただちにとるべき対応として「当局者や公的人物による事実の否定や、それによって被害者を再び傷つける行為に反論すること」をあげた。

 名指しはしていないが、審査では、慰安婦問題を取り上げた委員4人のうち3人が「慰安婦制度は必要なのは誰だってわかる」「強制連行を示す証拠はない」などとした橋下氏の発言に触れ、日本政府の見解をただしていた。

 勧告対象は、代用監獄問題など多項目にわたった。慰安婦問題では、元慰安婦に対する公的な補償や救済措置がなく、関係者の訴追が行われていないことに懸念も表明。さらに、日本政府に対し、全ての歴史の教科書に慰安婦問題を含めるよう求めた。

 審査で日本政府代表は、93年の河野談話や償い金を支給したアジア女性基金の取り組みを説明したが、橋下氏の発言には一切触れなかった。

慰安婦をめぐる国連委の勧告(英文)

Victims of military sexual slavery
(軍・性的奴隷制度の被害者)
  Notwithstanding the information provided by the State party concerning some steps taken to acknowledge the abuses against victims of Japan’s military sexual slavery practices during the Second World War, the so-called “comfort women”, the Committee remains deeply concerned at the State party’s failure to meet its obligations under the Convention while addressing this matter, in particular in relation to: (arts. 1, 2, 4, 10, 14 and 16)

(a) Failure to provide adequate redress and rehabilitation to the victims. The Committee regrets that the compensation, financed by private donations rather than public funds, was insufficient and inadequate;

(b) Failure to prosecute perpetrators of such acts of torture and bring them to justice. The Committee recalls that on account of the continuous nature of the effects of torture, statutes of limitations should not be applicable as these deprive victims of the redress, compensation, and rehabilitation due to them;

(c) Concealment or failure to disclose related facts and materials;

(d) Continuing official denial of the facts and re-traumatization of the victims by high-level national and local officials and politicians, including several diet members;

(e) The failure to carry out effective educational measures to prevent gender-based breaches of the Convention, as illustrated, inter alia, by a decrease in references to this issue in school history textbooks;

(f) The State party’s rejection of several recommendations relevant to this issue, made in the context of the universal periodic review (A/HRC/22/14/Add.1, paras.147.145 et seq.), which are akin to recommendations made by the Committee (para.24) and many other UN human rights mechanisms, inter alia, the Human Rights Committee (CCPR/C/JPN/CO/5, para.22), the Committee on the Elimination of Discrimination against Women (CEDAW/C/JPN/CO/6, para.38), the Committee on Economic, Social and Cultural Rights (E/C.12/JPN/CO/3, para.26) and several special procedures’ mandate-holders of the Human Rights Council.

  Recalling its general comment No. 3, the Committee urges the State party to take immediate and effective legislative and administrative measures to find victim-centered resolution for the issues of “comfort women”, in particular, by:

(a) Publicly acknowledge legal responsibility for the crimes of sexual slavery, and prosecute and punish perpetrators with appropriate penalties;

(b) Refute attempts to deny the facts by the government authorities and public figures and to re-traumatize the victims through such repeated denials;

(c) Disclose related materials, and investigate the facts thoroughly;

(d) Recognise the victim’s right to redress, and accordingly provide them full and effective redress and reparation, including compensation, satisfaction and the means for as full rehabilitation as possible;

(e) Educate the general public about the issue and include the events in all history textbooks, as a means of preventing further violations of the State party’s obligations under the Convention.


被害者の尊厳が守られるどころか、政府や公人による二次加害のほとんどが放置され、現在進行形のあらゆる中傷、人権侵害が、公然と行われているのが日本の現状です。


【追記】原文(docファイル) 国連拷問等禁止委員会で採択された日本政府への勧告
http://www2.ohchr.org/english/bodies/cat/docs/co/CAT.C.%20JPN.CO.2-%20AUV_en.doc
(このなかのNo.19「Victims of military sexual slavery」です。)


【追記2】 否定論に危機感を 国連委、政府に宿題 慰安婦問題 - 朝日新聞
2013/6/1 
http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201305310853.html

 (前略)ジュネーブで31日記者会見した(国連の拷問禁止)委員会のギアー副委員長は、慰安婦制度について、橋下氏が他国の例を挙げながら「『戦時においては』『世界各国の軍が』女性を必要としていた」と釈明したことについて、「どんな状況下でも、虐待や人間性の否定が必要だということはありえない」と述べた。
 米国出身のギアー氏は日本審査の議長を務めた。5月21日の審査では、慰安婦制度について「必要だった」「強制連行を示す証拠はない」などとする橋下氏の発言を取り上げ、「商業的な人身売買のように見えるが、軍の管理下だった。施設を離れられず、司令官の命令に従う必要があったという歴史的証拠から(慰安婦たちに)このシステムへの同意はないことは明らか」「典型的な否定論者の説明だ」と批判していた。(以下略)

関連リンク


2013/5/23 国連、日本政府に慰安婦に対するヘイトスピーチ防止を勧告 - Transnational History 国連、日本政府に慰安婦に対するヘイトスピーチ防止を勧告 - Transnational History


白馬・スマラン事件・オランダの慰安婦被害者 証言
http://www.youtube.com/watch?v=qIqJx6MSMc8

慰安婦」というのは「日本軍 性奴隷」に対する婉曲表現です。

満州の慰安所へ薬を配っていた衛生兵の記録

2013年5月16日 東京新聞 筆洗

黒竜江に近い駐屯地に/遅い春が来たころ/毛虱(けじらみ)駆除の指導で慰安所に出向いた〉〈オンドルにアンペラを敷いた部屋は/独房のように飾り気が無く/洗浄の洗面器とバニシングクリームが/辛(つら)い営みを語っていた〉


▼陸軍の衛生兵として、旧満州慰安所で薬を配って歩いた経験を基にした河上政治さん(92)の慰安婦と兵隊という詩である。十数年前に読み強く心に残った。続きを紹介したい


▼〈いのちを産む聖なるからだに/ひとときの安らぎを求めた天皇の兵隊は/それから間もなく貨物船に詰め込まれ/家畜のように運ばれ/フィリッピンで飢えて死んだ


▼〈水銀軟膏(なんこう)を手渡して去るぼくの背に/娘の唄(うた)う歌が追いかけてきた 〉。女性の出身地は分からない。薬を届けて帰ろうとした河上さんの耳に、彼女が口ずさんでいる歌が飛び込んできたのだろう


▼〈わたしのこころは べんじょのぞうり/きたないあしで ふんでゆく/おまえもおなじ おりぐらし/いきてかえれる あてもなく/どんなきもちで かようのか/おまえのこころは いたくはないか


▼性の営みという最も私的な領域まで管理、利用されるのが戦争だ。「慰安婦制度は必要だったと明快に言い切る政治家には、兵士を派遣する立場の視点しかない自らが一兵士として列に並び、妻や娘が慰安婦になる姿など想像できないのだろう


「慰安婦制度は必要だった」という @t_ishin の言葉に「そうだよなあ、本音をよくぞいった」と居酒屋でもりあがる悲しい男たちにならないように読んでおきたい、一文。 「慰安婦制度は必要だった」という @t_ishin の言葉に「そうだよなあ、本音をよくぞいった」と居酒屋でもりあがる悲しい男たちにならないように読んでおきたい、一文。より)

*バニシングクリーム = ひび割れ・あかぎれなどの改善に使用された
*水銀軟膏 = 毛虱の殺虫や梅毒に使用された



これまで数百人という元兵士たちへの聞きとりを行なってきた仙田実は次のように書いている。

吉田裕『兵士たちの戦後史』岩波書店 ,2011年,p.264より重引用

仙田実『昭和の遺言 十五年戦争 兵士が語った戦争の真実』文芸社,2008年

「実際に話をしてくれた(元兵士の)人々は、多く八〇歳前後からなかば、なかには九〇歳をこえた人もいた。彼らは人生の盛りに戦場に送られ、生死のさかいを何回も、また何年もさまよった。それは人生における死の初体験であり、命の終末をまぢかにしてさえも、意識の底に当時のままの姿で生きている。
 事実、私は何回か話しを聞くうちに、彼らの口からそれが奔流のごとくほとばしるーーあいだに鳴咽、感泣、慟哭(どうこく)がまじるーーのに接し、感動の涙にさそわれたことが幾度あったかしれない。戦争が終わって五○余年――人間の一生にとって、これはけっして短い歳月ではない。そのあいだ意識の底に生きつづけた彼らの痛切な思いや体験は、生半(なまなか)な言葉ではいいあらわせない深さをもっている。それはまさに「昭和の遺言」、しかもきわめて特殊な「遺言」である。これは人生二度目の死を目前にしての体験告白であり、懺悔なのである。」