Nスペ「アジアの一等国」に対する批判が事実とかけ離れている件。

4月5日に放送された、NHKスペシャルJAPANデビュー」の第1回「アジアの一等国」への批判というか非難が、右の人限定で盛り上がっているようですが、事実に基づいていないと思われるバッシングがあまりにも目立ち、「超偏向している!」という非難がもう完全に鏡像になっているので書いてみることにする。

まずは、すごい数のはてなブックマークがついた、blog「台湾は日本の生命線!」の記事から。このblogは以下のようにNHKを非難しています。

証言の「断片」のみ放映―台湾の被取材者が怒る反日番組「NHKスペシャル/シリーズ・JAPANデビュー」
(以下がblog主の主張です。)

「NHKの『被害者』としか思えないのが柯徳三氏」
(柯徳三氏)はNHKに対し「心外だ!」と「怒っている」
「NHKはそれを操作して、逆に台湾の『反日』イメージを強調した」
「台湾人への侮辱的な利用ではなくて何か、そして柯徳三氏ら被取材者への裏切り、冒涜でなくて何かと言うことだ」
「台湾人の心を踏み躙ることすら厭わない強烈な反日宣伝の意図を鮮明にした」

と、じつに大げさな表現を多様しているわけですが、わたくしに言わせると、ずいぶんと事実とかけ離れているなぁと思うわけです。名前のあがっている柯徳三(か とくぞう)氏は、チャンネル桜のインタビューを受けた際に確かに「良いことは載せてもらいたかったのに1つも載ってない。」と不満を漏らしているのは事実なんだけれども、NHKの番組、自体の評価としては前提として、非常に良い番組だった、と語っているんですね。

5/8【台湾取材レポート】柯徳三氏インタビュー・1/3[桜 H21/4/21]
http://www.youtube.com/watch?v=eXvmpZbfooA

カギカッコ内が柯徳三氏の実際の発言で、それ以外は要約です。)

0:23〜
リポーター「NHKの番組を御覧になった印象をお話しいただけますでしょうか?」

柯徳三「まあ、プログラム(番組)そのものとしては非常に良いと思いましたけどね。」「日本の150年間の歴史を振り返って、各東南アジアに及ぼした影響とか、各国々に及ぼした影響とか、いうことを言いたいんでしょうけどね。」

1:00〜
わたしは、日本が統治時代に施したインフラ整備や、後藤新平が台湾に建てた立派な建物や、鉄道、道路を建設したことなども話した。
2:40〜
取材は朝9時過ぎから午後になるまで続いた。日本統治時代のいわゆる「良いこと」「悪いこと」全部を話した。
3:20〜
証言した中で「これを発表したら日本人が台湾人を悪く思う」というところはカットしていいよ、と言ったのに、逆にそこだけ放送された。「良いことは載せてもらいたかったのに1つも載ってない。」

3:48〜
柯徳三「わたしの出版した本はね。良いこと悪いこと沢山あってね。あの時は、わたくしのしゃべった悪いこと、いままで日本がこうしたこうした差別待遇といったことを、たくさん書いたけど、あの本の中では全部削られた。」

リポーター「フハフハフハ……(ひきつり笑い)」

柯徳三「『桜の花出版社』は良いことばっかりを取り上げた。私がまるで日本サマサマだと考えてると、そういう具合の印象を受けるように書いてる。」「わたしは印税ひとつも貰っていない、書いた報いとして20冊くれただけ。」

4:48〜
ここでVTRが突然、強制終了し、ch桜のスタジオで水島総社長が「桜の花出版社」の弁明を始める。

(弁明については、こちらが詳しいので参照:http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1973.html

「台湾人の心を踏み躙る」「台湾人への侮辱的な利用」「柯徳三氏ら被取材者への裏切り、冒涜でなくて何かと言うことだ」(blog「台湾は日本の生命線!」より)という非常に大げさな非難のわりには、あれれ?といった具合なんですが、わたくしにはどうも、自分たちにとって都合の悪い、日本人が台湾人を差別していたという事実を放送したNHKを一方的に断罪するるために、台湾のおじいさんを利用しているようにしか見えない。


さらに、前回取り上げた「日本李登輝友の会*1のHPをみてみると、小林よしのり氏の「台湾人が日本に恨みしかない」と思わせる番組だった、という批判も載せているのだが、これも番組の内容に誇張、歪曲をおこなうなど、あまりに飛躍させすぎた非難ではないかと思う。

http://www.ritouki.jp/2009NHK.html
http://www.ritouki.jp/2009nhk/20090422Sapio.JPG

NHKスペシャル「シリーズJAPAN」の台湾の回を見て、わしは激怒した。わしの『台湾論』を完全否定している! 李登輝金美齢も蔡焜燦も林建良黄文雄も全員、嘘を言っているのか? 台湾人が日本に恨みしかないのなら、なぜ「海角7号」が台湾映画史上空前の大ヒットになった?

NHKスペシャル「シリーズJAPAN」は3年に亘って日本を貶める嘘を垂れ流す予定だという。『天皇論』の連載を終えたら、NHKに戦いを挑まねばならぬだろう。わしはずっときちんと受信料を払ってきたのにふざけやがって! 『ゴー宣スペシャル・NHK反日論』を作るか?(P.72)

NHKの番組は5日に放送されて以来、観ていなかったので記憶が曖昧になっていた。そこで最初の10分間を確認(こちらで)してみたんだけど、
(引用しているカギカッコの中が実際の発言で、それ以外は要約です。)

 番組は日本の統治時代を生きた台湾人のおじいさん達が台北の公園に集まって雑談をしているシーンから始まる。カメラを向けると「当時の大日本帝国軍人、◯◯隊でございます」と敬礼して挨拶する人。日本の軍歌を懐かしそうな表情で歌う人達。みんな笑顔である。
 日本が開港して間もない19世紀後半、「イギリス、フランスなどの西洋列強はアジアに狙いを定め競い合って植民地を獲得していた」そして「台湾を起点に中国大陸へ勢力を拡大しようと目論んでいた」というナレーション。その後、フランス外務省の資料に「イギリスやドイツが台湾を侵略するのならフランスは何らかの行動をとる」という記述が残されていることを紹介。「列強の植民地奪い合いの最前線となった台湾」とナレーションが続く……。

このように、番組は「台湾人が日本に恨みしかない」と「垂れ流す」ような内容にはなっていないわけですね。もちろん、「日本を貶める」目的で、日本だけがアジアへの勢力拡大を狙い台湾を植民地支配した、などとも描いていないわけです。

けっきょく、NHKスペシャルJAPANデビュー」の内容にヒステリックなまでに拒否反応を起こし非難している人達というのは、きちんと番組を観ないでNHKに対し悪意な解釈を勝手に加えたりだとか、「良い植民地支配」=親日、「悪い植民地支配」=反日といった1bit思考状態に陥りそれ以外興味を示せなかったりだとか、歴史に対してそんな態度では永遠に何も見えてきませんよという典型例ではないかと思う。


余談だけれども、いわゆる右派と呼ばれる人達が、お年寄りを利用するというやり方は、映画「靖国」を観てないのに「反日映画」とバッシングした際、出演した刈谷直治氏にチャンネル桜のキャスター・大高未貴氏が紙に書いたものを読ませ「私の出ている所を削除してほしい」と言っている!とチャンネル桜や産経が宣伝したことがありましたね。(参照:映画『靖国』騒動 出演者の刈谷さんが読み上げた紙は、チャンネル桜のキャスター・大高未貴が書いたものだった - blog*色即是空


【追記】
4/23 http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/090423/stt0904232253007-n1.htm
この人達についてはもうめんどくさいのでブコメの反応を載せておきます。

kowyoshi 稲田、町村、安部、中山って予想通りのフォーカード
biconcave 正直この会合のメンバーのほうがよっぽど偏向していることは否めないw
WinterMute なんでこんな者たちを国会議員に選んだのか。恥ずかしいし、最低の人間だ。
Stiffmuscle いつもの面子がいつもの難癖
good2nd 恒例ですね/NHKはこんなのスルーしてもらいたい