慰安婦の碑に込められた意味と、20年まったく進歩のない否定論。

『日本軍「慰安婦」問題解決全国行動2010』のホームページに、共同代表の梁澄子、花房俊雄の署名入り声明文が公開されています。そこには「平和の碑(慰安婦の碑)」に込めた意味と、なぜソウルの日本大使館前に建てられたのかが述べられていますので一部転載します。


平和の碑(慰安婦の碑)声明 - 韓国水曜デモ1000回アクション 平和の碑(慰安婦の碑)声明 - 韓国水曜デモ1000回アクション

(前略)
 ソウルの日本大使館前に建てられる「平和碑」は、その名の通り、平和を願う記念碑です。
 日本軍「慰安婦」被害女性たちと支援者らは、1992年1月8日から20年間、雨の日も、雪の日も、炎天下でも、毎週水曜日、日本軍「慰安婦」問題の解決を願って、ソウルの日本大使館前に立ってきました。
 その20年という日々は、この世から戦争と武力紛争をなくし、戦時下性暴力被害者が二度と生まれない世界をつくること、あらゆる暴力を根絶することこそが問題の真の解決であることを、被害者たち自身が獲得していく過程でした。
 自らの被害回復を訴えてその場に立ち始め、立ち続ける過程で問題の本質を見いだし、より普遍的な平和を訴えるに至った被害者たちの願いを込めた「平和碑」、日韓の真の友好親善を願う 「平和碑」を建てる場所は、当然ながら立ち続けてきた、その場所しかありません。
(以下略)

(改行はこちらで入れました。)

ここでは、最初は日本政府や軍隊への怒りから出発したであろう慰安婦の被害者たちが、20年という月日を経て、しだいに慰安婦問題の認識、考えを深めていき、そして問題の本質(性暴力、人権、反戦など)を見いだしていったこと。
そうした願いを込めたのが「平和の碑(慰安婦に碑)」であることが説明されています。

国や民族や人種によって変わることのない普遍的な価値観を見いだしていった元慰安婦たちという話が、けっして支援者側の独り善がりや思い込みと言えないことは、元慰安婦の人たちの言葉や行動にも表れています。
最近のことでいえば、例えば、東日本大震災の被害者のために黙祷や募金活動を行っていますし*1、証言でいえば、
慰安婦の吉元玉(キル・ウォノク)さん 4・10尼崎証言集会
http://www.jca.apc.org/ianfu_ketsugi/20100410.html

 私はこうやって自分の体験を人に話をするのですが、その話本当はは堂々と人に言えるようなものではない、とても恥ずかしい話です。そこには想像も出来ない苦痛、胸に詰まる苦しみがあります。
 でも本当に思うんですけれど、恥ずかしいのは私ではなくて、日本政府であり、韓国政府なのではないのでしょうか?
(中略)
 私は「慰安婦」問題について、みなさんひとりひとりが「責任」を持っているのだと思います。その「責任」とは、私たちのような辛い経験をする人がこれから先絶対に生まれないようにすることです。その「責任」をみなさん一人一人が持っているのだと思っています。これからみなさんが一生懸命努力してくださることによって、次の世代の子どもたちのために戦争のない国をつくって欲しいです。みなさんにそういう気持ちを持って欲しいと願っています。
(以下略)


いまの80代や90代のおばあさんで、ここまでのことを言える人ってそういないんじゃないでしょうか。
慰安婦問題についてさらにいえば、日本以外の国際社会では、女性への性暴力、人権の問題として認識されており、これは2007年に台湾、アメリカ、EU議会などで日本政府が慰安婦問題に真摯に対応をするよう求める決議が可決されている事実からもわかることです。


一方で、20年間、延々と「強制連行はなかった」、だから何の問題もないのだと繰り返す人々がいます。
そうした人々の無知をさらに助長しているのが産経新聞社で、この新聞社の慰安婦に関する報道の数は他社を圧倒しているといっていいでしょう。
ではそこで、どうのようなことが主張されているかといえば、


【主張】慰安婦の碑 首相は抗議し撤去求めよ+(1/2ページ) - MSN産経ニュース 【主張】慰安婦の碑 首相は抗議し撤去求めよ+(1/2ページ) - MSN産経ニュース

そもそも、慰安婦を日本の軍や官憲が強制連行したという証拠は何一つなく、日本政府が賠償すべき筋合いの問題ではない。

といった毎回、同じ内容の否定論なのです。
皇軍が人身売買された未成年者を含めた女性を直接、間接的に集めて、軍専用の買春宿に入れ長期間拘束していたこと、さらにそれを国家が政策として推進していたということは十分に問題があると思うのですが、そういったことにはぜったいに触れることはありません。
(そもそもこの「証拠がない」というのは性暴力を犯した側の常套句ですし、通常は「文書による強制連行の証拠」なんて残さないことは歴史研究者が指摘済みのことなのですがね。)


んで、ここで1つはっきりと分かることがあります。
それは、この20年間、慰安婦問題の否定論を振りまいてきた人々というのは、実は慰安婦問題についてまともに考えたことが一度もないということです。
ですから、これから先も延々と虚構の問題設定を繰り返すでしょう。


この政治家のように。(本来、政治家のやるべきことは性暴力や人権侵害が二度と繰り返されない社会をつくりだすことなんですがね。)
片山さつき Official Blog : 慰安婦という、軍人相手の娼婦は存在したが、強制連行の物的証拠はない!客観的事実を簡単におさらい 片山さつき Official Blog : 慰安婦という、軍人相手の娼婦は存在したが、強制連行の物的証拠はない!客観的事実を簡単におさらい

「争点となっているのは、これらの慰安婦のうち、韓国人の慰安婦が、日本軍によって強制連行されたか否か、です。」

しかし現実の世界というのは、こうしたデマゴーグが押し付けるような薄っぺらで狭い範囲のものではなく、はるかに複雑で多様なんですね。
慰安婦問題についても、“慰安”という言葉の欺瞞性、男性の女性に対する、占領者の被占領に対する、武装者として非武装者に対する、日本人として朝鮮人、中国人などに対する、買い主としてのなどなど、これらは差別や優越意識や植民地主義などが絡み合い重なり合っている問題でもあります*2
これらはけっして過去のことではなく、どう向き合い、どう解決、克服していけるのか、いまの私たちに突き付けられてくる問題でもあると思うのですが。

*1:震災と日本軍「慰安婦」被害者たち 震災と日本軍「慰安婦」被害者たち

*2:参考:鹿野政直『兵士であること』2005年