「慰安婦は性奴隷」という国際社会の認識

2012/7/9 慰安婦ではなく「日本軍の性奴隷」 クリントン米国務長官が指摘 韓国紙報道 - MSN産経ニュース 慰安婦ではなく「日本軍の性奴隷」 クリントン米国務長官が指摘 韓国紙報道 - MSN産経ニュース このエントリーをはてなブックマークに追加

 9日付の韓国紙、朝鮮日報は、クリントン国務長官が最近、国務省高官から日韓両国の歴史について報告を受けた際、旧日本軍の従軍慰安婦について「性奴隷」との名称を使うべきだと指摘したと報じた。ソウルの外交筋の話としている。

 慰安婦の名称をめぐっては、韓国の市民団体や国際人権団体などが、実態を反映していないとして「性奴隷」を使うよう求めている。

 高官が報告で「慰安婦」という言葉を使ったのに対し、クリントン氏は「慰安婦という表現は間違っている。強制的な日本軍の性奴隷だった」と述べたという。(共同)


と、9日付の朝鮮日報が「最近のこと」としてヒラリー・クリントン国務長官が「従軍慰安婦について性奴隷という名称を使うべき」だと発言したと報じています*1

これに対しネット上の反応を眺めてみたのですが、とっくに克服されてきたはずの文句をならべたて吹き上がる人たちがわんさかいるのです。なんでも、朝鮮日報の捏造説やら、「サヨクガ日本を貶め〜」と都合の悪いことは全部サヨクのせいにするいつものアレや、「アメリカの裏に韓国ガー」といった陰謀説、「高額報酬ガー」といったトンチンカンな暴論、「アメリカだって〜」という〇〇君もヤッてます論法などなど、毎度の実にアホらしい光景です。
まぁこれまでのアメリカの公式見解や国際社会の認識からしても、この発言がけっして外れたものではないことは明らかなんですがね。
いくつかその根拠を羅列してみると、


(1)2007年に採択されたアメリカ下院121号決議(H.Res.121)では、日本軍「慰安婦」を性奴隷と人身売買であると認定している。そして日本政府はこれを否定するいかなる主張に対しても、明確かつ公的に反論するべきだと求めている。同様の決議は、オランダ、カナダ、EU(ヨーロッパ)、台湾などの議会でも採択された。
また、アメリカ下院121号決議が採択される直前にアメリカ議会調査局(CRS)は報告書(2007年4月)をまとめている。そのなかでは「河野談話を修正しようとする日本のキャンペーン」と題し、日本の新聞や安倍晋三下村博文中川昭一を名指ししたうえで、「自民党日本の前途と歴史教育を考える議員の会に代表される日本の歴史修正主義者はこの期間に日本が行った大罪を赦免したいと狙っている」と指摘している。(参照:米議会調査局(CRS)報告書(2007年4月) - 従軍慰安婦問題を論じる 米議会調査局(CRS)報告書(2007年4月) - 従軍慰安婦問題を論じる


(2)国連の人権委員会は、慰安所制度は1926年の奴隷条約における国際慣習法に違反する性奴隷制度であり、女性への著しい人権侵害であると認定している。さらに戦争犯罪であり、責任者の処罰と被害者へ補償するよう日本政府に求めている。
奴隷状態(奴隷制度)の定義は1926年の奴隷条約において明記され、その定義は現在も広く認められている。『奴隷状態とは、所有権を伴う権力の一部もしくは全部が一個人に対して行使されている状況もしくは状態である」、レイプなどの性暴力の形態による性的接触も含む。(以下略)」(定義について詳しく見る→奴隷状態の定義 - 従軍慰安婦問題を論じる 奴隷状態の定義 - 従軍慰安婦問題を論じる


(3)国際労働機関(ILO)の条約勧告適用専門家委員会は、慰安婦の状態が1930年、当時の「強制労働条約 第29号」(日本は1932年に批准)に違反していると認定している。日本政府に対しては被害者へ適切な対応をするよう何度も勧告している。


さらに、当時の日本国内でも、


(4)戦前の日本の県会の廃娼決議でも、公娼制は「事実上の奴隷制度」とされていた*21930年から41年の間に(国内の)13県が廃止、他に14県が戦前に廃娼決議をしている。「公娼制それ自体が問題である」という認識が戦前の日本でもかなり広く共有されつつあった(少なくとも建前レベルでは)ことがわかる。神奈川県の決議では公娼制について「人身売買と自由拘束」による「事実上の奴隷制度」としており、米下院決議などが「慰安所」制度を性奴隷制度だとしたことが、当時の日本の価値観から大きく隔たるものではないことがわかる。(参照:公娼制は当時の日本では「当たり前」だったか? - Apes! Not Monkeys! はてな別館 公娼制は当時の日本では「当たり前」だったか? - Apes! Not Monkeys! はてな別館



頭に血がのぼったナショナリズムの対立「だけ」でしか認識できない人たちに、歴史学の研究成果や国際法や国際社会の認識をいくら説明してもあまり意味があるとは思えないのだが、一応書いてみた。

*1:2012/7/9付け朝鮮日報の記事:慰安婦クリントン長官「性的奴隷と表現すべき」http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2012/07/09/2012070900718.html

*2:慰安婦制度は公娼制度の延長線上に創設されたもので相違はあるものの、慰安婦も公娼も本質的には「奴隷状態」に置かれていたことに変わりはない。