慰安婦の基本的な解説を単なる想像から批判してるコメントがいろいろとひどい

hokke-ookami氏からのTB『「novlunoさんによる「慰安婦」基本的な事実解説」への反応 - 法華狼の日記 「novlunoさんによる「慰安婦」基本的な事実解説」への反応 - 法華狼の日記』で知ったのだが、Togetterに従軍慰安婦問題についてnovlunoさんという方のツイートがまとめられている。

novlunoさんによる「慰安婦」基本的な事実解説 - Togetter novlunoさんによる「慰安婦」基本的な事実解説 - Togetter


これに対しコメント欄で@32hamp氏というどう見ても慰安婦問題について理解できていない人がドヤ顔で批判しているわけだが…

@32hamp
慰安所に政府や軍が関与したのは当たり前やん。今だって風俗産業は警察、保健所なんかで管理されてます罠。 「慰安所」が「軍人向け売春宿」でなく「強制的な強姦施設」だって証拠は例によって挙がってないし。
https://twitter.com/32hamp/status/213304792271962112

@32hamp
>常時軍の管理下において軍と共に行動させられており、自由もない、痛ましい生活を強いられていたことは明らかである。 んで強制的な強姦施設か否かの資料が単なる想像であるこれだけ。ぶっちゃけ、嘘。そもそも売春宿があるって事は、勝ってて補給なんかに余裕があると言うこと。で、実際、戦争初期に稼ぎまくって故郷に凱旋した売春婦の話もたくさん記録にある。 太平洋戦争=辛く補給もない戦い=そこに慰安所が有ったら苦労したに違いない、という、歴史を調べてない人の安易な連想にすぎない。
https://twitter.com/32hamp/status/213305592784236545


>慰安所に政府や軍が関与したのは当たり前やん。今だって風俗産業は警察、保健所なんかで管理されてます罠。


これってかつて小林よしのりが1997年の『新・ゴーマニズム宣言 3巻*1』で書いた言い分とほぼ同様の、使い古された否定論なわけです。
警察署の敷地に直営の風俗店を設置し警察が運用することも、警察が女性を集めてくるよう指示を出すことも、警察学校で風俗店の開設の仕方を教わる*2こともありませんが、日本の軍隊ではこれらすべてを実行していました。
もうこれだけで、こいつが慰安婦問題についてまともに理解できていないことは丸わかりなわけです。


>「慰安所」が「軍人向け売春宿」でなく「強制的な強姦施設」だって証拠は例によって挙がってないし。


こいつは、慰安所が売春宿だったら問題ないという認識であり、これはこれまで何度も繰り返されてきた「慰安婦は売春婦だ!」だから問題ないという認識と同根の問題を含んでいるといえる。
つまり女性を売春婦とそうでない女性に分断し、売春婦なら何をされてもしょうがない、犠牲になっていい存在だという認識なわけです。この視点からは蔑視と差別は当然のものとなっており、だからこそ慰安婦問題で何が問題にされているのかろくに認識できないのだろう。


さらに、基本文献である吉見義明教授の『従軍慰安婦』を読めば「朝鮮からの徴集でもっとも多いのは、だまされて連れて行かれたケースだった」ことが報告されており、それを裏付ける日本軍将兵の手記や元慰安婦だった女性たちの証言がいくつも納められている。

つまり軍から女性を集めてくるよう指示された軍の請負業者が人身売買や拉致・誘拐によって多くの女性たちを集め、国外の慰安所まで何をするのか教えない状態で軍の許可を受けた軍用船などを使用し移送したのである。(当時の刑法国外移送目的の拉致・誘拐罪、人身売買罪に違反)
慰安所に到着すると彼女たちは軍の管理下のもとで逃げ出すことも出来ず売春を強制され慰安婦にさせられた。彼女たちは慰安婦制度の下で前借金により身体を拘束され逃げ出せない奴隷状態におかれていた。そこでは長期間、継続的に性的“奉仕”を強要されるという性暴力と人権侵害がおこなわれた。(当時の強制労働条約 第29号、婦人及児童の売買禁止に関する国際条約に違反)
国際労働機関(ILO)は当時の強制労働条約 第29号に違反していると指摘している。このことからも朝鮮人慰安婦の「強制性」は、はっきりしている。

日本政府も調査結果を踏まえた談話のなかで「慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった」ことは認めている(慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話)。

(ちなみに、この慰安婦制度は敗戦まで軍という国家機関の政策として遂行されたが、軍は業者を罰し契約を破棄させ女性を送り返すということをしないで黙認していた。)


>そもそも売春宿があるって事は、勝ってて補給なんかに余裕があると言うこと。


軍が慰安所を設置する理由は「勝ってて補給なんかに余裕がある」からなんて思いつきで設置していたというこでなく、慰安所は強姦の多発、防諜、性病蔓延の防止策などいくつもの理由付けがされて設置が決められていました。
はっきり言ってこいつの書いていることはhokke-ookami氏が書くように「32hamp氏の言葉を借りれば「単なる想像」」ばかりなのだ。
また、戦況が悪化していても米軍が素通りした地域には慰安所は存在していたし、1945年3月のアンダマン補給作戦では慰安婦が送り込まれ、インドネシアのアンボンでは1945年5月頃に新しい軍慰安所3軒が開設されていたりする*3沖縄戦ビルマ戦線などでは米英軍の攻撃から逃れながらも避難壕などで“慰安”をさせられた(させられていた)という証言もある。


>実際、戦争初期に稼ぎまくって故郷に凱旋した売春婦の話もたくさん記録にある。


ごく少数そうした人がいた程度の話が、「たくさん」なんだー(棒読み)
楼主による搾取の仕組みと金の不払い*4は、別に慰安婦についての文献を読んだことがなくとも遊郭やからゆきさんについて書かれたものを多少でも読んでいれば分かりそうなものだが*5

@32hamp
勿論、戦線が日本に迫ってくるにつれ、思うように疎開できずに酷い目に遭った慰安婦もたくさんいます。ただ、それは当時外地に出てた民間人全てに共通なことで、慰安婦だけ強制的に連れ回されたりはしてない。
https://twitter.com/32hamp/status/213306246546210816


この人は「醜い目に遭った」一人ひとりの異なる悲惨さに目を向ける気はまったくないようです。
ここではいきなり他人ごととして「民間人」が持ち出されますが、もちろん苦しむ人が二度と出ないよう普遍的な視点からではなく、相対化をするためだけに「民間人」が利用されます。
このような常に他人ごととしてみんな悲惨だったなんて主張は、結局、誰も悲惨でなかったと言ってるに等しいミスリードでしかないしょう。
ちなみに、慰安所経営者や従軍慰安婦は当時、純粋な民間人でなく、軍属扱いか準軍属に近い扱いでした*6


(このエントリは朝鮮半島からの女性の徴集に限定して書いています。植民地であった朝鮮とは徴集の形態が異なる中国やインドネシア、フィリピンなどの東南アジアでは、占領地の軍が女性を直接集めるケースが多数ありました。)


TB先
「さあどうする」と問われているのはお前だ - Apes! Not Monkeys! はてな別館 「さあどうする」と問われているのはお前だ - Apes! Not Monkeys! はてな別館


参考文献

ナショナリズムとジェンダー
上野 千鶴子
青土社
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従軍慰安婦 (岩波新書)
吉見 義明
岩波書店
売り上げランキング: 79114

*1:『新・ゴーマニズム宣言 (3) 』小学館 、1997年

*2:産経新聞社の社長である鹿内信隆は、1938年頃に主計将校となる教育を陸軍経理学校で受け、そこで慰安所の開設の仕方を教わっていたと証言している。参考『いま明かす戦後秘史 (上)』サンケイ出版、1983年

*3:慰安婦の強制連行(インドネシア・アンボン島の事例) - Transnational History

*4:秦郁彦でさえ楼主による不払いは意外に多かったと書いている。参考『慰安婦と戦場の性』

*5:牧英正『人身売買』やルポなら『サンダカン八番娼館』など

*6:陸軍では軍慰安所兵站の付属施設と位置づけられていたし、靖国神社には慰安所経営者が軍属として合祀されている