小林英明委員が、放送法の自己流『解釈』を根拠に個別番組の内容に干渉しているようだが……

7/6 NHKスペシャル:「アジアの“一等国”」 「台湾統治」認識で揺れる番組評価 - 毎日jp(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090706ddm012040007000c.html

 NHK経営委員会の小林英明委員からも番組批判が出ている。小林委員は5月の委員会で、日台戦争という用語を使っていることについて「歴史的事実がない。報道は事実を曲げないことを規定した放送法に違反する」と指摘した。

 放送法は、委員が個別番組に干渉することを禁止している。安倍氏が首相時代に任命した小林委員は、安倍氏のスキャンダルを報じた月刊誌「噂の真相」(休刊)を相手にした名誉棄損訴訟の代理人でもある。

 一方、市民団体「開かれたNHKをめざす全国連絡会」(世話人松田浩・元立命館大教授ら4人)は、番組を評価する。小林委員の発言を問題視するとともに、議連発足や訴訟、デモなどによって自主・自律の姿勢が損なわれないよう求める文書を7日にもNHKに提出する方針だ。


上記の「放送法は、委員が個別番組に干渉することを禁止している。」の部分ですが、6月28日付けのしんぶん赤旗8面に、この件を取り上げた、放送研究者の松山陽一氏の「放送法の解釈をめぐって」と題する記事が載っています。

松山陽一氏は、NHK経営委員の1人である小林英明(こばやしひであき)氏の、経営委員会での以下の発言を「第3条の理解不足、経営委員の役割と経営委員会の権限の混同に陥っているのではないだろうか。」「放送法の自己流『解釈』を根拠に個別番組の内容に干渉し、当該番組の放送を放送法違反だと発言した」「これこそ放送法第3条の規定に抵触する行為ではないだろうか。」と述べています。

少し長いですがNHK経営委員会での小林英明氏の発言と、赤旗に載っていた松山陽一氏の記事の後半部分を転載してみます。


(ここからNHK経営委員会での小林英明氏の発言)


平成21年5月26日 第1095回 NHK経営委員会議事録
http://www.nhk.or.jp/keiei-iinkai/giji/g1095.html

(小林委員)
 前回、「JAPANデビュー」の話がありました。私は、時間がなかったためごく短くお話ししましたが、非常に重要な問題だと思いますし、いろいろと誤解を与えてはいけませんので、また発言させていただきます。前回も少し話しましたが、経営委員が個別番組について発言できる根拠を話しておかないといろいろと批判を受けるかと思います。私は少なくとも放送された番組が法律に違反、あるいは違反した疑いがあると考えたときは、その番組内容について発言したり意見したりすることは経営委員の役割であると考えています。

放送法第14条第1項第2号は、経営委員の行う職務の1つとして役員の職務の執行の監督を定めています。番組を制作・放送することが役員の職務の1つであることは明らかです。一方、番組の制作・放送という職務の執行を監督の対象外とする条文は定められていません。つまり、この条文によって、経営委員には執行部が行った番組の制作・放送という職務の執行行為について監督する役割を与えられていると言えます。このような考え方に対して、経営委員が個別の番組の内容について発言したり、意見することができないという考え方があるようです。そのような考え方は放送法第16条の2を根拠としていると思われます。しかしその考え方は正しくないと考えます。放送法第16条の2第1項は、「経営委員は、放送法に別段に定めがある場合を除き、個別の番組内容の編集その他の協会の業務の執行をすることができない」と規定しています。しかし、この条文は、「放送法に規定してある場合を除き何々できない」としており、逆の場合、すなわち、「放送法に規定してある場合は何々できる」と解釈すべき条文です。前述のとおり、経営委員が執行部の職務の執行を監督するのは放送法に基づくことであり、まさに放送法に規定してある場合にあたります。次に放送法第16条の2第2項では、「経営委員は、個別の放送番組の編集について、第3条の規定に抵触する行為をしてはならない」と規定しています。そして放送法第3条では、「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」と規定しています。この第3条も前述の条文と同様に、「法律に定める権限に基づく場合でなければ何々できない」という形式で定められています。つまり逆の場合、すなわち、「法律に定める権限に基づく場合は何々できる」と解釈すべき条文です。前述のとおり、経営委員が執行部の職務執行を監督するのは放送法に基づくことであり、法律に定める権限に基づく場合にあたります。

以上のとおり、経営委員が個別の番組について発言したり意見することができないという考え方は正しくないと考えています。ただし経営委員として注意しなければならないことがあります。それは経営委員に与えられた役割は執行ではなく監督であるということです。そして、ときには執行と監督の区別が明確でないケースがあるということです。これは執行部が行う職務全般について言えることですが、番組の制作・放送については特に注意を払い、経営委員自ら執行を行うことは許されないことを自覚し、監督行為を行うことが必要だと思います。このような立場にたって当該番組について発言したいと思います。放送法第3条の2第1項第3号は、真実でない報道を行うことを禁止しています。当該番組にはその法律に違反した疑いのある事項が存在したと考えています。当該番組で「日台戦争」ということばを使っていました。「日台戦争」とは日本と台湾との間に戦争があったことを意味することばですが、私の歴史の知識によれば、このような歴史的事実はなかったと思います。このような歴史的事実がなければ、そのような内容の放送をすることが放送法に違反すると思いますが、どのようにお考えでしょうか。


(ここから6月28日の赤旗の記事を転載開始。)


「放送番組編集の自由」を規定した放送法第3条は「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。」と定めている。


放送法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO132.html

第3条 放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。


ここでいう「法律に定める権限」とは、放送法による改正放送や災害対策基本法による放送の要請などだとされる。放送法に定める経営委員会の権限等は含まれていないといえよう。

「役員の職務の執行の監督」は経営委員の役割ではなく、正しくは会議制の意思決定機関としての経営委員会の権限である。放送法第3条からそれには個別番組の内容のチェックは含まれていない。

経営委員の権限等は別の条文にある。


経営委員会規程
http://www.nhk.or.jp/keiei-iinkai/about/regulations.html

第3条(権限)
5 委員は、放送法または放送法に基づく命令に別段の定めがある場合を除き、個別の放送番組の編集その他の協会の業務を執行することができない。
6 委員は、個別の放送番組の編集について、放送法第3条の規定に抵触する行為をしてはならない。


その内容は放送法又はこれに基づく命令に「別段の定めがある場合を除き(中略)協会の業務を執行することができない。」および「個別の放送番組の編集について、第3条の規定に抵触する行為をしてはならない。」の2つである。

小林英明委員は、第3条の理解不足、経営委員の役割と経営委員会の権限の混同に陥っているのではないだろうか。

今回の小林英明委員の発言の重大性は、放送法の自己流「解釈」を根拠に個別番組の内容に干渉し、当該番組の放送を放送法違反だと発言したことにある。これこそ放送法第3条の規定に抵触する行為ではないだろうか。(松山陽一・放送研究者)


(転載はここまで。分かりやすいよう条文のリンクと引用はこちらで追加しています。)