日本軍の悪習 初年兵に対する私役やビンタ

4121017595言論統制―情報官・鈴木庫三と教育の国防国家 (中公新書)
佐藤 卓己

中央公論新社 2004-08
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言論統制」を読了。本書では戦後、言論弾圧の代名詞のように語り継がれてきた鈴木庫三(すずき くらぞう)少佐について、言論弾圧したのは事実だけど実際は言われているような悪いヤツじゃないんだよ、ということが当時の日記を追いながら書かれています。この人のヤバイ思想に無批判なところに物足りなさを感じましたが、鈴木庫三が1918(大正7)年に*1輜重兵第一大隊の候補生として軍隊内での露骨な階級格差や古参兵、上等兵の初年兵に対する横暴、私的制裁、暴力について「人道上よろし宜(よろ)しからざるべし」「古参者より受けたる不正当にして蛮的なる圧制」「遺伝的軍隊の*2陋習」と批判しているところが興味深かったです。第一次大戦後の平時においてすでにこのような問題があった状況は、日中戦争以降の戦時動員で膨張した軍隊では急速に悪化したことは想像に難しくないと思います。

日本軍が占領した地域で住民に対してもビンタを行い反感を買っていたことはJ-Seagullさんがこちらのエントリで触れているので紹介しておきますね。こちら:占領地に「日本式」慣習を持ち込んだ日本軍:考察NIPPON



4061857711コミック昭和史〈第3巻〉日中全面戦争~太平洋戦争開始 (講談社文庫)
水木 しげる

講談社 1994-09
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「日中全面戦争〜太平洋戦争開始」を読了。1937(昭和13)年の近衛首相の「東亜新秩序」の声明から水木しげる先生がラバウルに出発するまでがマンガで描かれています。本書の後半では新聞配達員をクビになった水木先生に突然、召集令状がきて鳥取連隊に入隊するわけですが、そこから水木マンガでおなじみの初年兵教育と称する上等兵殿のビンタとの戦いが始まるわけですね。*3

p242より

ミッドウェー海戦)その頃ぼくは毎日なぐられていた、のみこみが悪いというのか、平気というのか、気にしなかったのがいけなかった。毎日ビンタがさくれつした。

p259より

軍隊では畳と兵隊は叩けば叩くほどよくなるという信仰があり、ビンタは終わることがなかった。

p137.138より

軍隊で一番軍隊らしいのが分隊です。十人の中に分隊長がおり、その下に古兵(こへい)と称する上等兵がいます。これは普通カミサマといわれ、初年兵をなぐるだけで靴下はもちろんフンドシまで洗濯させる者もいます。ぼくは分隊に新入りがこなかったため万年初年兵でした。古兵どのの無理難題に日々苦しめられるのです。ぼくは今でも初年兵の頃の夢をみます。これほど情けなく苦しいものは世界にまずないでしょう。(水木二等兵がこぶしを握りしめ歯を食いしばっている描写)

p134より(画像はhttp://page.freett.com/zaj17637/16/1.htmlから拝借。)

二等兵
初年兵と称され一年中、毎日なぐられる


一等兵
いくらからくになるがウカウカしてられない


上等兵
普通にカミサマといわれもっぱらなぐる係りである


兵長
上等兵の上で早い人は分隊長となる、これもカミサマ


「はァじゃねえよ きさまだよ」
ビビビビビン


「はァとはなんだ!」
ビビビビビ の ビビビビビン


「ばっかやろぅ〜!」
ビビビビビン ビビビビビーーーン☆

【追記】
みなんさん「兵隊やくざ」という1965(昭和40)年に制作された映画を知ってました?
舞台は1943(昭和18)年、満州北端の孫呉に駐屯する関東軍部隊にヤクザあがりの初年兵・大宮貴三郎(勝新太郎)が入隊してきて次々にトラブルを起こす、という内容らしいんですが、封建的な軍隊内での私的制裁(ビンタ、鉄拳、足蹴りなど)の様子がけっこうリアルに描かれいるんですよ。これがまた。


*1:輜重(しちょう)=輸送に任ずる兵科。

*2:陋習(ろうしゅう)=悪習のこと。

*3:ラバウル戦記」にはラバウルにいたころ初年兵同士で「敵よりもこの古兵にやられてしまう」と話し合ったことや、「初年兵はすべてノイローゼ気味だった」ことが書かれています。